いえない事情〜初恋のエリート上司がわたしに執着する理由〜


「まぁ、星から聞いただけなんだけど」

「そんなところだろうと思ってた」


 『たまにはオシャレなお店に行きたい!』とブーブー文句を垂れる同期の星すみれの顔を思い浮かべて笑っていれば、「これやる」とぶら下げていたレジ袋から取り出したものを袋ごと差し出される。受け取ってみると、それは和服を着た女の子がトレードマークの梅味の飴だった。


「わ、ありがと。これ好き。労いの飴?」

「そ」

「じゃ、今いただいちゃおーっと」

「……共食い」


 いただきます、と私がさっそく一つ取り出してパクリと食べるのを見た侑士くんがゆるりと笑って言った。


「……ねぇ、絶対それを言いたいがためのチョイスだよね?毎回くれるお菓子が梅味なのは」

「さあ、それはどうかな」

「そこはもう素直に認めようよ」


 侑士くんはたまにこうしてお菓子をくれるけれど、そのどれもが漏れなく梅味のものだということに気づいたのはいつの頃だったか。

 二人で顔を見合わせて笑ったところで、ちょうどエレベーターがやってくる。流れに乗って二人で乗り込み、八階で降りた時、彼が内緒話をするように私の方へ屈んで「うめ、ちょっとこっち」と、私を徐に人気のない通路へ引っ張った。


「なに?どうしたの?」

「── 今日から来る、BMのこと」

「ああ」

「……何か聞いてる?」

「うん。なんでもフェル社から送り込まれてきた、超優秀でイケメンの独身らしいよ」

「……それだけ?」

「うん。それだけ」

「……そう」


 なるほど、それが聞きたかったのか、と、壁に背中を預けて腕組みしている姿が無駄に様になっている侑士くんに茅野ちゃんから仕入れた情報を伝えれば、特段興味のなさそうな返事が返ってくる。まぁ聞きたいのはきっと、そういうことではなかったのだろう。でも私の持っている情報は、残念ながらそれだけなのだ。


「侑士くんこそ、デザイナーの情報網とやらで何か知らないの?」


 私がおどけて逆にそう聞き返せば、彼は一瞬虚をつかれた表情をした。たぶん、ここでさっきのそれを持ち出されるとは思ってなかったのだろう。


「……ない」


 それは、デザイナーの情報網自体が存在しないということなのか、それとも新BMに対する情報がないということなのか、あるいは両方なのか。その答えからは、残念ながらどちらなのかまでは読み取れなかった。