『みすとら』 小さな恋の物語

体育館に着くと、例によってブルーシートがかかっている檻が運ばれてきました。広い広い体育館にいたのは、私たち五人と先生とドーブツだけでした。
「小学生の頃は、これが結婚相手とか言われていたわ」そよりさんが言いました。何となく、どの生き物と遊ぶか決まっていました。私は、いつも通りハリネズミと遊んでいました。そよりさんはゴールデンレトリバーと、ユキは白黒のブチ猫と、カスミはヤギと遊んでいました。すると、ヤギは間違えてカスミの足を踏んでしまいました。
「いったー!」機嫌の悪かったカスミは、一気に手が付けられなくなりました。
「いっやー! きらいー! あっちいけー!」ヤギは、見るからに困っていました。
「(ヤギって、困るんだ・・・)」私は不思議に思いました。
『ばっひょこ~ん』変な音とともにヤギの姿が変わり始めました。ヤギは困り果てて、カマキリになってしまいました。
「(? ヤギって、困るとカマキリになるの?)」私は混乱しました。そこに黒い柴犬と遊んでいたここあちゃんが、やって来ました。先生は、体育館の端っこで動画を見ていました。
「あら、あら、カスミさん。困ったわね~」
「きーらーいー!」カスミの不機嫌は、治りませんでした。ここあちゃんが、そっとカスミの肩に手を置いて言いました。
「だいじょうぶよ・・・」そして、ニコリとしました。
「・・・」カスミの不機嫌が収まりました。
「(あんなに怒っていたのに・・・)」私は不思議に思いました。
「ちょっと、ここで待っててね」と言って、ここあちゃんはカマキリを連れて体育館のステージ裏に行ってしまいました。私は、気付かれないようについて行ってみました。
「こんどは、こっちね」と言って、カマキリの背中を優しく撫でました。
「だいじょうぶよ・・・」そして、ニコリとしました。
『どにてぷ』カマキリは変な音を出しながらヤギに戻りました。
「(! カマキリって、成長するとヤギになるんだ!)」私は、不思議な発見をしました。先生は、動画を見ながら音楽を聴いていました。
「カスミさん、この子キライ?」ここあちゃんが、カスミにヤギが嫌いか聞いていました。
「キライじゃないよ~。痛かっただけだよ~」カスミは小さくここあちゃんに伝えました。
「そぅ、それならば脱落しないわ」とヤギに伝えると、ヤギは小躍りしていました。
「(何だろう・・・。このやり取り・・・)」私の不思議は、消えませんでした。
気になったので、あとで私は、ここあちゃんに聞いてみました。
「ここあちゃん、質問があるんだけど・・・」
「何かしら? きよ美さん」ここあちゃんの声は落ち着いていました。
「ここあちゃんは、カマキリを治せるの?」
「んふっ」ここあちゃんは優しい笑顔を見せました。
「あなたに見られたのは、二度目ね・・・」私は思い出しました。
「! 昔、外人の子がいたよね? その子もカマキリと遊んでいたよね?」
「そう」と、ひと言だけ言いました。
「可哀想に・・・。フェリシアちゃんは、脱落(きこく)しちゃったの・・・」深くて重い一言でした。