愛しのオオカミ

慌て出す上級生たちは、急いでその場をあとにしていく。


「押花ちゃんはお前のじゃねっつの」

「……」


まるで逃げるように階段を駆け降りる様子を見ながら、ベーッと舌を出してみせる亮太。
美紀は、眼鏡を外して袖で目をゴシゴシと拭き、顔を上げた。


「ありがとう…土師くん」

「…たまたま通ったから、別にいいよ。押花ちゃんも、あぁいうの来たら、即逃げていいんだよ」

「…うん……なるべく頑張る…って、前も助けてもらったから、説得力ないね…」

「ね〜。オレ、押花ちゃんのピンチ遭遇率、校内イチかもしんないね〜」


力なく笑う美紀に、亮太は小首を傾げて、嬉しそうに笑った。


「…あんま擦ると、赤くなるよ?目」

「う、うん…本当にありがとう、土師くん」

「ん。じゃあ、気をつけて帰ってね押花ちゃん」

「また明日…」


亮太にもう一度お礼を伝えると、美紀は自分の教室に小走りで向かった。
階下から吹き上げてきた風を受ける亮太。


「…気をつけてね、ほんとに…」


亮太は口元を緩ませながら、ぽつりとつぶやいて、美紀の背中を見送った。


そして、美紀たちの様子の一部、反対の棟の窓から修が見ていた。










それから、バッグを持って、校舎を後にする美紀。


「…はぁ〜……」


トボトボと歩きながら、最寄りの駅を目指して歩く。


(…土師くんの言うとおり、すぐに逃げればよかった…けど……)


上級生に捕まれた腕を、ギュッと抱きしめるように押さえた。
そして、出来事を思い出すと、背筋にゾクリと寒気が走り、冷や汗が出てきた。


(…大丈夫…大丈夫…)


自分に言い聞かせると、顔を上げて電光掲示板を見て、電車が来る時間を確認する。
スマホを取り出して時間を見ると、まだ少し余裕があった。

駅のホームに着くと、乗降口から離れて、本を取り出して開いた。


(…やっぱり、本は落ち着くな…)


しばらく読んでいると、電車が到着する放送が流れた。
本をバッグに入れて顔を上げて横を見ると、間を空けて修が立っているのに気づいた美紀。

その瞬間、ゴォッとやってきた電車の勢いで、追い風が吹く。
三つ編みが揺れ、眼鏡をかけ直す頃には、電車から降りてくる人と乗る人でごちゃついた。

二人の間を人混みが通るが、修の黒い髪の毛は見えたため、動かずにいることがわかる。
ようやく人混みが少なくなると、乗り込んでいった。

ドアが閉まるベルが鳴ると、まるで追いかけるように修の後に続いた。


「……っ…」

「……」


思わず、修の隣に並んで乗ってしまった美紀は、俯いて固まる。