愛しのオオカミ

それから放課後になると、帰宅する生徒や部活動に向かう生徒たちが、パラパラと散っていく。


「押花ちゃん、また明日ね〜」

「ばいばーい」

「うん…明日…」


帰り支度をしていた美紀は、挨拶する同級生や廊下を歩く他クラスの生徒に、挨拶を返した。
美紀は、バッグを机に置くと、修へ振り返った。


「…えっと…あ、案内する…ね…」

「……嫌ならしなくていい」

「え!?そ、そんなことないよ…!」

「じゃあ、よく使うところだけ教えてくれ」


じっと美紀を見つめていた修は、ようやく立ち上がってバッグを持った。
教室の出入り口に向かう修に、慌ててついていく美紀。


「上の3階が化学室で、奥が美術室。4階は音楽室とホールがあって、学年集会とかでよく使われるよ」

「1階は、さっきの食堂と購買部、あっちに保健室と備品室があって…ー」


美紀は、概ね使う場所を教え終える。
玄関口に着くと、これから帰宅するであろう修の動きを待った。

しかし、特に動くこともしない修は、チラッと美紀を見た。


「え、えっと…とりあえず…よく使う場所は教えられたと思う、よ…?」

「……そうか」


一言だけ残すと、バッグを持ち直して、また校内へと向かって歩いていく。 
帰ると思っていただけに、少し恥ずかしくなる美紀は、顔を赤くしてクラスに戻る階段を登った。


(なんか…早く帰れって言っちゃったみたい…黒井くんごめんなさい…!うぅ…恥ずかしい…)


階段を登り終えて角を曲がると、ドンッと何かにぶつかる。


「ひっ…ご、ごめんなさい!…ぼーっとして…て……」

「おぉ!押花ちゃん!」

「まじ?ラッキーじゃん」

「ははっ、リベンジリベンジ〜」


食堂前で会った、上級生三人のひとりとぶつかったようだ。
美紀の表情は、一気に青ざめた。


「…あ…あの…私、し…失礼します…っ」

「まぁまぁいいじゃん!こいつの話くらい聞いてやってよ〜」

「おまっ!俺の許可なしに押花ちゃんに触んな!」

「…っ……」


腕を掴まれた美紀は、途端に恐怖を感じて涙がにじんできた。


(だ、ダメ…!怖い…!!)


「ちょっ…!押花ちゃん、その顔さぁ…」

「ダメだっつの!押花ちゃん!俺!本気だから!だから…!?」


涙目になる美紀の表情に、顔を赤くした上級生たち。
ひとりが勢いよく美紀の肩を掴んだが、ガクンと膝から崩れる。


「な…!」

「せーんぱいっ。さっき教頭センセが巡回してましたよ?先輩たちが下級生の階にいるのって結構まずくなかったです?」


三人の後ろから、亮太が来たであろう方向を、笑顔で指差した。