愛しのオオカミ


「ここ、隣が食堂にもなってるから…」

「…わかった」


購買部に集まる生徒や、出入りする生徒を見て、修はコクリと頷いた。
そして、自販機が見えると、修はスタスタと向かう。


(これは…一緒に戻った方がいいのかな…)


「あれ?押花ちゃんじゃん!何してるの?」

「ひとり?俺らと一緒に昼メシ食べん?」

「いや…あの……」

「無理強いはすんなって!でも、一緒に食おうよ〜」


上級生の絡みにたじろぐ美紀は、少し後ずさった。
そのうちのひとりが、美紀の手を掴もうと手を伸ばすが、そのすき間に何かが落ちる。

ゴロゴロと転がったのは、スポーツ飲料のペットボトル。


「…手が滑った」

「…ぁあ!?何っだ、おま…え………」


自分たちよりも少し背の高い修に…というより、整った顔立ちに気圧される上級生たちはたじろいだ。


「嫌がってるだろ」

「い、いやぁ…!じゃあ、押花ちゃん!また今度ね!」

「早く行こうぜ…!!」


そそくさと立ち去っていく上級生を確認すると、美紀に桃ジュースのパック飲料を差し出した。


「え…」

「…案内してもらったから」

「あ、ありがとう…」

「戻る」

「あ…うん…」


自分から落としたペットボトルを拾う修。
ジュースを受け取った美紀は、今度は反対に、修の後について歩いた。

チラッと修の背中を見るが、すぐに視線を下に向けた。
冷たい桃ジュースを持っていた美紀は、小走りでついて行きながら、ハッとして声をかける。


「あのっ、黒井くんっ…教室戻ったら、お金…」

「いらない。間違えて買っただけだ」

「え…で、でも…っ」

「…いらない」


立ち止まる修の鋭い眼差しに、美紀はビクッと肩を震わせて止まった。
一瞬、修と視線が交わされるが、美紀はすぐに逸らして、小さく頷いた。


二人が教室に戻ってくると、各々が席に戻る。
美紀がバッグからランチバッグを取り出していると、ニコニコと亮太が話しかけてきた。


「押花ちゃんおかえり〜。あ、その桃ジュースうまいよ。オレが押花ちゃんにおすすめする一本!」

「そうなんだ…」

「黒井くんさ、すんごいイケメンだよね!他のクラスでもう噂になってるよー?」

「………」


笑顔で話しかけてくる亮太に、修は目も合わせず、スマホを取り出して操作し始めた。


「あの…土師くん、私行くから…」

「あ!ごめんごめん。気ぃつけてね〜」


パタパタと教室を出ていく美紀を、修の視線が追いかけた。
その様子を横目で見る亮太は、口を開きかけたが、少し考えて閉じた。