愛しのオオカミ

食べ終えた二人は牛丼チェーン店をあとにした。


「はぁ~お腹いっぱい…」

「…あれだけで…?」

「黒井くんの食べっぷりも見たから、余計にお腹いっぱいだよ」


クスクスと笑う美紀に、不思議そうな顔を見せる修。
美紀は鞄から財布を取り出しかけたが、修がすぐに歩き出した。


「あ…っ、黒井くん!お金…!」

「いい」

「でも、お会計のときに“あとで”って…」

「…本、教えてくれた礼ってことだ」

「……ありがとう…」


顔だけ振り返る修を見て、口を開きかけたが、美紀は財布を鞄に入れた。
そして、また修の隣に並んで一緒に歩く。


「黒井くんは、帰ったら関先生の本から読む?」

「…いや、押花のおすすめの本から読む」

「じゃあ…読み始めたら教えてくれる?私も同じときに読みたいな」

「…あぁ…」


修を見上げると、微笑んで見てくれていた。
思わず美紀は顔を赤らめると、ドクッと鼓動が鳴るのを感じながら、前を向いて歩く。


(わ…笑って…くれた…。笑ってくれた…!)


嬉しくなる美紀は、ニヤけてしまう顔を何とか保とうと頑張った。
駅につくと、時計を確認する美紀は、立ち止まった。


「私、まだ行くところあるから…今日はありがとう」

「…俺も行っていいか?」

「え!?」

「……ダメか?」

「だ、ダメじゃないよ!嬉しい!雑貨屋さんに行くんだけど、いいかな?」

「…あぁ」


今度は美紀が先頭を歩き出すと、修が付いて歩いた。


(莉奈以外の友達と、ショッピング…!嬉しい!)


嬉しそうな表情を見せる美紀は、周囲がチラチラと視線を向けているのには、気づかなかった。


「あ。黒井くん、そういえば、転校ってことはこっちに引っ越してきたの?前はどんなとこに、わ!!」


振り返りながら歩いていた美紀を、修がグイッと引き寄せる。
抱えられるように背中に腕を回されているのがわかると、顔が熱くなった。


「…隣にいろって言った。…親の都合でこっちに越してきた。前のとこは田舎の方だ」

「あ…ありがとう…」


修に支えられながら態勢を整えると、赤い顔を俯かせてまたひとり気まずくなってしまう美紀。
すると、ポンっと修の手が頭に置かれ、ゆっくりと見上げた。


「案内…していい…?」

「……そうだな」


安心したように笑うと、美紀は修に手を差し出した。
しかし、美紀の手と美紀の顔を交互に見る修は、不思議そうな顔で止まった。


「え…?あれ?と、友達と手を繋いで…行こうかと…」

「………いや、いい」

「ご…ごめんね…」


修からフイっと顔を逸らされると、恥ずかしくさから差し出していた手は鞄をギュッと握る。