愛しのオオカミ


「あ、ありがとうございました~…!」


慌てて美紀から手を離す店員は、すぐに次に並んでいた客を呼んで、ごまかすように業務をした。
しばらくジトッと見ていた修だが、美紀の方を見る。


「…?」

「……」


小首を傾げる美紀から目を逸らして、先を歩き出すと、美紀もあとに続いた。
足の長い修の一歩は大きく、早足で追いかける美紀は通り過ぎる人とぶつかり、頭を下げる。

立ち止まって待っていた修に駆け寄ると謝った。


「ごめんねっ」

「…いや…悪い…」

「え?」

「隣、いてくれ。その方が安心する」


修が自分の隣を指差すと、察した美紀が修の隣に並んだ。
顔を上げて修を見ると、ようやく目線が合うと、じっと見つめてしまった。

黒髪と同じ黒い瞳を見つめる美紀は、嬉しそうに笑った。


「見れた!」

「は…?」

「あ、ううん…なんでも……えっと、黒井くんの目、見れてなかったから…見れてよかったなって…。さっきはありがとう…今も…」

「……」


照れたように笑った美紀を見ても、修は返事をせずに歩き出した。
しかし、今度は美紀の歩幅に合わせるように、ゆっくりと歩いてくれた。


(黒井くん、やっぱり優しい…。今日はいいこといっぱいあったよ、亮太くん)


ニコニコとした顔で隣をあるく美紀をチラリと見る修は、店の前で止まった。
美紀も止まると、意外な顔で修を見る。


「こ、ここ?」

「…あぁ。別のとこがいいか?」

「ううん!ここでいいよ!…ただ、ちょっと意外…かも…」

「いらっしゃいませ~お好きな席にどうぞ~!」


修と一緒に入ったのは、牛丼チェーン店。
カウンター席に隣同士で座ると、タブレット端末を取って、美紀に見せる修。


「えっと、私、これで…」

「……」


小盛を指差せば修がタップし、そのまま大盛りをタップして注文を済ませた。
おしぼりで手を拭いていた美紀は、チラッと水を飲む修を見る。


「…黒井くん、よく来るの?」

「いや、ここは初めてだ。けど、牛丼は好きだ」

「…そうなんだ。じゃあ、学校の食堂の牛丼も美味しいらしいから、食べてみ」

「お待たせしましたぁ!」


落ち着いて話せないことを察した美紀は、やってきた牛丼に視線を向けた。
修から箸を受け取ると、さっそく食べ始める。


「いただきます」


大盛りの器を持って、グワッと口を開いた修は大きなひと口を食べてモグモグと口を動かした。
その様子に呆気にとられる美紀は、箸を持ったまま固まってしまった。


(口、大きい……)


豪快と呼べるほどの食べっぷりを見ると、ふふっと笑ってしまう美紀。