愛しのオオカミ


「…あ」

「あ…」


伸ばした手は声と同時に止まり、隣を見れば修がいた。


「く、黒井くん…」

「……」


美紀からフイっと視線を逸らすと、そのまま二冊分の本を取り、一冊を美紀に差し出した。


「…今朝、ネットニュース見て、来た」

「わ、私も…!久々だから、早くに来ちゃった!」


嬉しそうに笑って受け取る美紀だったが、私服の修を見るついでに、周囲の女性客の視線が集まっているのに気づく。
なんとなく顔を下に向けつつ、本を持つ美紀は、迷った。


(どうしよう…話し…でも続かなかったら…)

『大丈夫だよ』


亮太の声と言葉で顔を上げると、修をしっかりと見た。


「黒井くん!じ、時間あったりする!?」

「…あぁ。もう少し本を見るつもりだ」

「じゃあ、一緒に見てもいいかな…?黒井くんの好きな本も知りたい、し…」


ぎこちなくも照れながら笑って見せる美紀を見て、修はコクリと頷いた。


「押花のおすすめも教えてくれ。知りたい」

「…うん!」


本を受け取ったときと同じくらいの笑顔で頷き返すと、さっそくジャンル別の本を案内して回った。
立ち止まって指差してみたり、手に取って修に渡したりして、美紀はおすすめのポイントを伝える。

修は黙ってついて歩き、受け取って少し読んだり、美紀の話を聞いたりしていた。
最初に取った本を持つ手には、数冊の本が増えていた。


「ー…で、ここもおすすめかな。関先生の本が好きなら、こっちも読みやすくておすすめ!」

「…そうか」

「あ…!ごめんね!すごいグルグル回っちゃった…時間とか大丈夫?」


ぐぅ…きゅるるる……


美紀から聞こえてくる腹の虫の音。
恥ずかしくなって、すぐに修に背中を向けてしまったが、ゆっくりと振り向いてみる。

修は口元を隠して俯いていた。


(…絶対…聞こえてたよね…!?笑われてるよね!?)


「ふ…っ…」

「…!?」

「何か、食べるか?」

「……うん…」


手を離した際に見えた修の表情に柔らかさを感じると、微笑まれる。

顔を赤くする美紀は、小さな返事と頷きを返すと、本屋のレジへ向かう修に続いた。
修の後ろに並んでいた美紀は、黒髪の背中を見つめて、学校の図書室のことを思い出す。


(あの時と同じだ。……亮太くんと背中、違うなぁ…)


「次の方どうぞ~」


隣のレジに呼ばれると、購入する本を出して鞄から財布を取り出した。


「1,700円になります……2,000円お預かりしましたので、お釣りが300円になります」

「……」


お釣りを受け取るのに差し出した手を店員が離さず、両手で握ってきた。
ゾクリと嫌な予感を感じる美紀は店員を見ると、ニタリと笑っている。


「…あ…」

「押花。終わったか?」


すでに会計が終わった修が、鋭く冷たい視線を店員に向けながら、美紀の隣に立って話しかける。