愛しのオオカミ

そのまま早めのご飯を食べて、休日の朝を迎えた美紀は、私服に着替えて台所へ向かった。


「おはようおばあちゃん」

「おはよう。もう出るんね?」

「うん!ちょっと早めに見たいものがあって…」


出されたトーストとサラダを前に、手を合わせて食べ始める。
モグモグと動く口が早くなった。


「そんな急ぐと、詰まるよ?」

「んん゛!」

「ほらぁ」


美紀の背中を摩りながら、飲み物が入ったコップを渡すおばあちゃん。
勢いよくゴクゴクと飲む美紀は、喉に詰まりかけていた物を流し込んだ。


「…ふぅー…ありがとうおばあちゃん…」

「気ぃつけんさい」

「はぁい。いってきます!」


鞄を持った美紀は、玄関に行って靴を履き、ドアを開けて外に出た。
鞄から眼鏡を取り出してかけると、小さく意気込んで顔を上げて歩く。

いつものように駅に向かい、改札を通って少し湿った風を受けた。
三つ編みに結って垂らした横髪が風に舞う。

電光掲示板へと顔を上げて、スマホの時刻を確認すれば、あと数分で到着することがわかった。


「すみません」


後ろから声をかけられると、スーツ姿の男性が立っていた。


「…これ、落としましたよ」

「……いいえ。私のじゃないです…」


差し出された水色のハンカチを見て、首を横に振る。


「え?おかしいな。君から落ちてきたんだけど…」

「…で、でも、私のじゃないです…」

「……もしかしたら君のかもしれないし、良かったら連絡先」

「ご、ごめんなさい!!」


頭を下げてすぐにその場を去る美紀は、男性の声に振り返らずに、ホームの端へ向かった。
ちょうど、電車もホームに入ってきたため、降りてくる乗客に紛れてすぐに電車に乗る。

そして、電車の車両を移動して、男性の目から逃れた。


(…大丈夫…だよね…。でも…あんまり怖くなかった…)


ふと浮かぶ亮太の顔を思いながら、少しの笑みがこぼれる。
顔を上げて、車窓から流れて見える景色を見つめた。

二駅ほど通り過ぎて止まると、電車を降りて改札を出る美紀。
駅の横にある大きなショッピングモールに入ると、美紀の気持ちはワクワクし始めた。


(関先生の久々の新作…!)


案内地図も見ずに、まっすぐに行き慣れた本屋へと向かう。
店内の商品棚に並ぶさまざまな本を眺めたり、手に取ってさわりを読んでみたりして、本屋を満喫したあと目的の本がある場所へ。


(あった!朝チェックしてて良かった~!)


思わず口元を緩ませながら手を伸ばすと、隣からも同時に手が伸びてきた。