愛しのオオカミ


「押花さん、よかったら、そのまま放課後に黒井くんを校内案内してあげてくれる?」

「は、はい…」


担任の頼みに返事をすると、少しだけ修の反応を伺う美紀。
特に、何も言わない修が美紀の視線に気づくと、一瞬だけ視線が交わされ、美紀が慌てて前を向いた。

そのまま別の担当教員が入ってくると、一限目の授業が始まった。
教科書を開いて、黒板に書き込みながら、解説をしていく教員。


(校内案内かぁ…興味あるように思えないけど…知っておくのは大切…だよね…)


美紀は、気乗りしない頼まれごとに気付くと、小さく肩でため息をついた。
ペン回しをしながら、ほんの少しだけ、亮太は美紀の様子を見る。


(…教室から出て…あっちの棟を周って…反対のとこ…ってそんなに使わない場所だなぁ…。ちゃんと教えてた方がいいのかな…)


授業の話も耳に入ってこなくなるほど、放課後の道案内を考える一方で、ちょっとだけ不安になる美紀。


(……誰とも会いませんように…)


不安は、持っていたペンを強く握るほどだった。
またため息をこぼせば、考えをやめて、授業に集中した。



昼休みの予鈴が鳴ると、亮太は立ち上がって、美紀の顔を覗き込んで笑った。


「押花ちゃん、今日なんかあった?」

「え…?」

「いやぁ…ずっとため息してたからさ、放課後案内が嫌ならオレ代わるよ?」

「だ、大丈夫…!嫌とかそんなんじゃ…」


亮太の言い方に誤解を招かないか慌てる美紀は、視線を修へ向けつつ、申し出を断った。
修は聞こえていたのかいないのか、構わず立ち会がり、美紀と亮太のそばに立つ。


「おばなさん、自販機か購買の場所を教えてくれ」

「う、うん…こっち…」

「いってらっさ~い」


すぐに立ち上がると、修を連れて教室を出て行った。
笑顔で見送っていた亮太から笑みが消えると、二人が出た教室の出入り口をしばらく見つめていた。


「あっ。押花さんだ…!」

「後ろの人カッコ良くない?初めて見るけど…」

「ほら!3組に転校生来るって言ってたじゃん!彼じゃない?」

「二人並ぶとやばい。語彙力なくす…かっこかわよ…」


購買部の方へ向かうほど人も多くなり、徐々に俯き気味になる美紀に、ポケットに手を入れたまま並んで歩く修。


(な、何か話した方がいいのかな…でも、ずっと黙ってるし…)


周囲が騒いでいるため、話し出すきっかけをなくした美紀は、チラチラと修を見る。
ふいに、前を見て歩いていた修と目が合った。


「…なんだ?」

「ごっ、ごめんなさい…!何でもない…」


美紀が大きな気まずさを感じているうちに、購買部の前についた。