愛しのオオカミ

ベンチに座る二人は、黙ったままで、美紀の鼻をすする音だけが響いた。
ボールを膝に乗せて転がす亮太は、前を見つめていた。

自分が立てる音に耐えかねた美紀は、口を開く。


「…あの、亮太くん…部活の途中なのに、ごめんね…」

「オレ部活入ってないよ~。たまに助っ人で呼ばれるけど、めんどいから入ってない」


二パッと笑う亮太は、ようやく目が合う美紀を見つめる。


「…下駄箱までいこっか」


立ち上がる亮太に手を引かれて、美紀も立ち上がると、亮太がバックを持って歩き出した。
他の生徒に見られないように下を向いていたが、ふと顔を上げて、亮太の背中を見つめる。


(…人、いないとこ通って…る…)


つい安堵の笑みがこぼれると、亮太の手をギュッと握った。
すると、亮太が振り返って笑顔を見せた。


「ん?なに~?」

「…ありがとう…亮太くん」

「オレ、何もしてないよ~」


握り返してくれる亮太としばらく歩くと、下駄箱についた。
名残惜しい気持ちになる美紀は、下駄箱を見つめたまま手を離せずにいた。


「美紀ちゃんごめん…オレ、手繋いじゃってるけど、今…緊張してきた…」

「……」


赤くなった顔を腕で口元を隠す亮太を見ると、美紀も真っ赤になってしまった。
離そうか迷っていた手が、なぜか余計に離せなくなる。


「……」

「え~…と…美紀ちゃん……あれだったら、駅まで送るよ?」

「…!」


パッと表情が明るくなる美紀を見て、照れたように笑う亮太はボールを隅に置いた。
亮太が靴を履き替える間、美紀は手を繋いで待ち、今度は反対に亮太が待った。

そのまま手を繋いで下駄箱から外へ出る。
昼の日差しが真上から差すなか、駅に向かって歩く二人は珍しく静かだった。


「…オレも電車が良かったな~…そしたら美紀ちゃんたちと帰れたのにね」

「私もバス通学してみたいな…」

「大変だよ~?時間との勝負!一本逃したらもう遅刻するかどうかって感じで」


ようやく談笑と呼べる会話ができるようになり、気づけばあっという間に駅前についてしまった。


「帰れる?」

「うん…大丈夫。…ありがとう…」

「…オレ、笑ってる美紀ちゃん好きだなぁ」


美紀は手を離すと、亮太からバッグを受け取っている途中で真っ赤になる。
言葉をなくした美紀は、亮太から目を逸らしてしまう。


「見送るって言ったから、行きなよ」

「…うん」


頷いた美紀は、亮太に微笑むと、定期券通して改札を抜ける。
振り返れば、笑顔の亮太が手を振ってくれていた。

美紀も手を振り返すと、そのままホームに続く階段を上った。


「……っ……」


美紀の姿が見えなくなると、亮太は胸を押さえて、近くの壁に寄りかかり、少し休んでから学校へ戻った。