愛しのオオカミ

スタスタと早足に美紀のそばに来ると、すぐに上級生の胸倉を掴む。
顔を近づけて、囁きながらも鋭い視線で睨みつけた。


「……触んなっつったよなぁ?そんなに喉元、捻られたいのか?あ?」

「ひぃ…!お、俺…!」

「二度と美紀に触んな。消えろ」


小さな悲鳴を上げる上級生は、ボールで足が縺れて転びながらも、急いでその場を離れていった。

いまだに美紀へ振り返らない亮太の背中を見つめていると、自分がカタカタと震えていることにようやく気付いた。


「………美紀ちゃん…」

「…あ…あり…が…」

「いーよ~。無理しなくて。いいって言うまで待つよ」


美紀に振り返るが、その場に立ったまま二パッと笑う亮太。
バッグを落とした美紀は、眼鏡を外してあふれてくる涙を拭った。


「美紀ちゃん、今はオレしかいないよ」

「…っ…ん…」

「怖いのはもうどっかいったし、もう近寄らせないよ」

「…う、ん…」

「頼っていいんだよ」

「……りょ、亮太く…」


涙を拭きながら亮太に手を伸ばしてみると、優しく手を取られる。


「…もう、いい?」

「…っ…」


コクコクと頷くと、美紀の手を握って側に近寄る亮太は、ポンポンと美紀の頭を撫でた。
いまだに全身が震える美紀は、亮太の手をギュッと強く握ってしまう。


「オレがいるから、大丈夫だよ」


優しく握り返す亮太は反対の手を美紀の頬に添えると、指で涙を拭った。
顔を上げる美紀を見ると、手を離して抱きしめる。


「ごめん…嫌だったら言ってね」

「……っ…」


美紀は、反射的に手で押してしまいそうになったが、亮太の胸元から聞こえる少し速い鼓動を聞いて、力を抜いた。


「あ、走ってきたから、汗くさいかもしんない…ごめん。でも、震え止まったね?」

「………」


亮太の言葉で自分の状態を理解すると、小さく頷いた。
そして、ポンポンとまた頭を撫でられるリズムと合わせて、美紀は目を閉じて深呼吸する。


「…亮太くん…も、大丈夫…」

「ん。…オレ怖い?」


美紀の頬に触れかけるも、一度手を止める亮太を見て、首を左右に振った美紀。


「亮太くんは、怖くないよ…優しい…」

「美紀ちゃんも優しいよ」


フッと笑ってゆっくりと頬に触れると、まだ止まらない美紀の涙を拭い続けた。