愛しのオオカミ

…—

それから二週間後の6月頭、森林高校では中間定期考査が実施されていた。
苦い顔をしながら書き込む亮太、修と美紀は、真剣な表情で書き込んでいる。

時計を見ていた教員は、予鈴が鳴ると声をかけた。


「はいそこまで~。後ろの人、集めてきてー」


修を含めて列の後ろの人たちが立ち上がり、答案用紙を集めて教員へ渡した。
最後の科目だったようで、美紀は一息ついていると、生徒全員の答案用紙を集めた教員が出ていく。


「終わったねー美紀ちゃん!」

「土師…亮太くん。うん、やっとだね」

「昼さー、黒井くんもつれて食堂で食べない?」

「……えっと、ごめんね。用事があって…」

「…それは…残念…」

「そうだなーじゃあ、亮太、俺らとサッカーすんぞ~」

「え~~…オレ、今日はバスケの気分~……美紀ちゃんまたね~」

しょんぼりした亮太の首元の襟をグイッと引っ張るクラスメイト。
引きずられていくのをクスっと笑い、手を振って見送る美紀。

今度は修が立ち上がり、バッグを持って美紀の横を通り過ぎる。


「く、黒井くん…帰るの?」

「…あぁ」

「そっか…また月曜日…」

「あぁ…」


短い返事を残して、修も教室をあとにした。
美紀は帰り支度をして教室を出ると、別棟に行って莉奈の待つベンチに向かった。

しかし、そこに莉奈の姿はなく、美紀は先に座ってランチバッグを取り出した。
しばらくすれば、スマホに通知が入る。


『ごめん~!急遽バイト!ごめん!』

「……」


スマホをポケットに入れると、ランチバッグを開けて二段の弁当箱を取り出した。
蓋を開けると、好物のから揚げが最初に目に入り、笑みをこぼした。


「いただきます」


呟いた食事の挨拶は、静かな廊下に小さく響く。
黙々とひとりの食事を終える美紀は、ランチバッグを片付けると、さっそく本を取り出して読書に耽った。


(……やっぱり関先生の本、好きだなぁ~…)


本を閉じて、そっと表紙を撫でると、ふふっと笑った。
すると、遠くから足音と息切れするような音が聞こえてくるのに気づく。


「……?」

「はぁっ…はぁ…っ、や、やっぱ押花ちゃんだ…!」

「………」


以前、亮太に腕を掴まれていた上級生が、ニタニタと嬉しそうに近づいてきた。
体を強張らせる美紀は、震えながらバッグを持って立ち上がった。


「ま、待ってよ…!!ここによく来るの!?俺も一緒に…てか、俺、押花ちゃんのことマジだからさ…付き合おうよ!」

「やっ…あの…はな、離してください…!」


バッグを持つ美紀の手を掴み、自分の方へ引き寄せ始める。
息の荒い上級生の表情を見て、体が石のように固まってしまった。


「可愛い…ねぇ、押花ちゃへぶ!!!」


横からの衝撃で、倒れ込んだ上級生は、頬を押さえて衝撃の方向を見る。


「…外した……チッ…!!」


美紀の足元に、バスケットボールが転がった。
そして、上級生と同じ方向を見ると、鬼の形相をした亮太が立っていた。