愛しのオオカミ


「…その…運動…苦手だから……」


恥ずかしくなって教科書で顔を隠す美紀を見て、にんまりと笑う亮太。


「1年のときの100m、頑張ってたじゃん」

「で、でも…ビリだったし……みんなに迷惑かけちゃったから…」


修がノートを閉じると、下校時間のチャイムが鳴った。
三人はスピーカーを見上げ、各自帰りの準備をして、教室から出ていった。


「今年は生徒会がおもしろ借り物競争を企画してるらしいから、ちょっと楽しみなんだよね~」

「ははは…そうなんだ…」


(私にはハードルが高い競技だなぁ…)


二人と並んで歩いている美紀は、苦笑いしながら話を聞く。


「あ、黒井くんはスポーツ万能だよね」

「え!?」

「体育のとき、バスケしたんだけど、めっちゃすごかったんだよ。ゴール全部決めるし」

「スポーツ得意なんだ…!?」

「…普通だ」


ひょこッと顔を出して修を見るが、視線は合うことなく答えられた。
下駄箱についてから靴を履き替えると、美紀を待っていた二人に駆け寄る。

スマホを見ていた亮太が顔を上げ、修はバッグを持ち直した。


「二人とも、スポーツ得意なのすごいね!」

「オレは勉強できる美紀ちゃんもすごいと思う」

「…こ、今年は頑張る…!」

「おお?」


俯きながらも意気込みを見せる美紀に、亮太は微笑んだ。


「二人のテスト勉強見てたら、今年の体育祭、頑張ろうって思ってきたの…な、何かコツとか…」

「…体力」

「…体力」


修と亮太から同時に答えをもらったが、一気にしおしおと落ち込んでしまった。


「……今からできる体力づくりはありますか…」

「走るといいよ~」

「走る……わかった!ありがとう!」

「…先にテストだろ」

「黒井くんやめて~。今美紀ちゃんいい感じだから~」


校門に着くと、亮太はバス停に向かうため、美紀たちと手を振って別れた。
急に二人になったため、緊張し始める美紀は、眼鏡をかけ直しながら、修の横を歩いた。


「……」

「……」


(な…なにか…話題…!)


焦りを感じつつも、うららとのことを思い返してしまう美紀は、話しかけられない。
ただ沈黙のまま歩き続けていると、駅についてしまった。

電光掲示板とスマホの時計を見ると、電車が発車したばかりなことに気付く。


「…で、電車、いっちゃったね…」

「あぁ…」

「えっと…あ。本…今度、関先生の持ってきてもいいかな…テ、テスト終わったら…前に言ってたおすすめの……」

「あぁ…」


修は構わず定期券を改札に通してホームへ向かったため、追いかけながら話す美紀。
なかなか続かない会話に、ついもどかしさを感じてしまった。