愛しのオオカミ

美紀からは、斜め後ろから少しだけしか見えない修の笑み。


(………笑って)


「あの…!!1年4組の柳川(やながわ)うららです!!サッカー部のマネージャーで…!黒井センパイ入部しませんか!?」


ハッとする美紀は、笑顔でハキハキと話すうららを見る。
少し頬が赤く、見たことがあるような表情だと感じた。


「…いや、部活はしない。ボール、落とすなよ」

「あはは残念!ありがとうございます!」


笑って去っていったうららを見送ると、修は美紀へと振り返った。
俯いている美紀を不思議に思う修は、声をかけようと口を開く。


「ごめんね~、話し込んじゃった。押花ちゃん、ジュースぬるくなってない?」

「う、うん…大丈夫…冷たいよ…っ」


亮太が声をかけてくると、そっちに向いてしまった美紀は、そのまま修に背中を向けて亮太に笑った。


「…あ。さっきの子が新しいマネだった?」

「うららちゃんっていうんだって…元気で可愛い子だったよ…ね、黒井くん」

「……元気だったな。押花、お茶」

「あ…!ご、ごめんね!」


まだ持っていた修のお茶を、慌てて渡す美紀は、修の顔を見れないでいた。
自分から校舎へと歩き出した美紀は、振り返らずに、二人に声をかける。


「は、はやく勉強しよう…!」

「…うん…?」

「……」


早足に先に行ってしまった美紀を追いかける前に、亮太はチラッと修へ視線を送った。
そして、フイっと視線を戻すと、美紀を追いかける。

お茶のペットボトルを見たあと、修も歩き出そうとしたが、今度は後ろから何かに引っぱられた。


「あの…!黒井センパイ…!」

「……」


振り返ると、息を切らしたうららが赤い顔で修を見上げた。


「お、押花センパイと付き合ってるんですか!?」

「…いや…付き合ってない」

「え!!?ほんとですか!?」

「あぁ…」


パァッと明るい表情になるうららは、今度はハッとして目を泳がせる。


「あの、えっと、せ、二年の先輩が聞いてきてほしいって…それで…あ、ありがとうございます…」

「…あぁ。そろそろ離してくれ」

「わぁ!ごめんなさい!!」


掴んでいた修の制服を離すと、修はすぐに二人を追うように早足に去っていった。
うららは、そんな修の後姿を少し切ないような、嬉しいような表情で見つめる。


「いいなぁ…押花センパイ…」


俯き気味に呟くと、部活のメンバーに呼ばれてその場をあとにした。