愛しのオオカミ


「だって、みんな…3年生の人まで土師くんに挨拶してる…!」

「あー…昼休みにバスケとかサッカーとかしてるからさ~…チームに入れられるからね…。それに、人気者はオレ以外にもいるよ~隣に」

「…?」


亮太が指差す方を見ると、前を向いて歩く修。
しかし、通り過ぎる女子生徒たちが、小さく騒いでいるのが見えた。


「ね?転校初日から女の子たち、ずっとああだよ」

「…なるほど…?」

「……なんだ」


美紀と亮太の視線に気づいて顔を向けると、改めて修の顔立ちの良さにも気づくが、亮太も同じくらいに整っているのにも気づく。


(…この二人、人気の自覚なさそう…)


両隣にいる対照的な二人を見て、ほんの少し苦笑いをして見せた。

購買部に着くと、ちょうど、部活動の準備をしている生徒たちが集まっていた。


「お、亮太じゃん」

「やほー。今年のサッカー部一年はどんな?」

「可愛いマネージャー二人ゲット!」

「…レギュラー候補を探さんかい…」


集まりの方に足を向けた亮太は、呆れながら会話に入った。
美紀は、楽し気な亮太をチラッと見て、桃ジュースを購入した。

しかし、隣にいた修は、まったく買う素振りがない。


「黒井くん?ジュース…あ…」

「……」


修がよく飲んでいたスポーツ飲料のペットボトルが売り切れとなっていたため、じっと固まっていた。


「えっと…お水とか…あっ、こっちのは!?」

「……いや、水で…!?」


あたふたしていた美紀に、返事をしかけた修が急にバランスを崩し、倒れそうになる。
瞬間的に、自販機にバンっと手をつくと、美紀の顔に制服がつくかつかないかの距離で止まった。

美紀の足元に、サッカーボールが転がってきた。


「……」

「ご、ごめんなさい!!ボール拾いしてて…!!」


修が振り返ると、ツインテールの女子生徒が修の制服を掴んで、顔を上げる。
足元のボールを拾っていた美紀は、聞き覚えのある声に、顔をズラして様子を見た。


「うわ!押花センパイ!今日も可愛い~!…じゃなくて!黒井センパイもごめんなさい!!」

「…いや……」


ガコン、という音が聞こえると、三人の視線は自販機に移った。
屈んでいた美紀が取りだすと、緑茶のペットボトルを修に差し出して見せる。


「わーー!それ!私のせいですよね!?ごめんない!弁償します!」

「…いい。飲める」

「あの…ボール…」

「ひゃーー!!可愛い!ありがとうございます!!それじゃあ押花センパイ、黒井センパイ!ありがとうございました!」


美紀からボールを受け取ったツインテールの女子は、ペコペコと頭を下げるが、またボールを落とした。
今度は修の足元に転がり、拾い上げる。


「…ふ……慌てすぎだ」


思わず口元を緩ませた修は、ボールを差し出した。