愛しのオオカミ

「押花、ここがわからない」

「え!?」

「これは形容詞なのはわかるが、どう訳すんだ?」


英語の教科書を見せつつ、修がじっと見つめてくる。
自然と修の方へ体を向けて、教科書を見る美紀は、亮太を気にしつつも英文を読んだ。

一部の女子生徒が、またヒソヒソと話しているのが聞こえた。


(黒井くん…今じゃなくても…土師くん、大丈夫かな…)


「…難しいのか?」

「え?」

「…唸ってる」


ふと、自分が口元に手を置いているのに気づくと、慌てて首を横に振った。


「ご、ごめんね!大丈夫…ここの訳は…」

「……」


修に教えている間も、男女の話が止まらず、美紀の視線はチラチラと後ろを気にしてしまう。
すると、ガタっと修が立ち上がると、亮太の席に向かった。


「土師、少し静かにしてくれ。押花の説明が聞こえない」

「……オレに言うんだぁ。…押花ちゃん、ごめんね」

「ううん……」


チラリと修を見た亮太から、一瞬笑みが消えるが、すぐに笑って美紀を見る。
それ以上何も言えない美紀が視線を逸らしていると、修は自分の席に戻ってきた。


「ここ、もう一度教えてくれ」

「…うん…」

「はいはーい。みんなもう戻りな~。先生くるよ~」


パンパンと手を叩いて、自分を囲むクラスメイト達の群れを解散させる亮太。
美紀ももう一度解説していると、担任が教室に入ってきた。


「はい席ついて~ホームルーム始めるよ」

「黒井くん、またあとで続きしよう」

「あぁ…」


すぐに前を向いて、担任からの連絡事項を聞きながら、バッグに教科書を入れる。


「ー…ん~、以上かな。それじゃあ、来月頭に定期考査もあるから、各自きちんと勉強しておくように。来週からは、部活動も試験勉強の休みだからね、遊ぶ時間じゃないからね!」

「はーい」


数人が返事をしたあと、ホームルームが終わり、放課後に入った。
英語と化学の教科書を取り出して、美紀が顔を上げると、亮太が立っていた。


「押花ちゃん、なんか飲み物買いにいかない?この前みたいに、ひとりで持つの大変でしょ?」

「うん…あ、黒井くんも…どうかな…?」

「……」


返事の代わりに立ち上がって、美紀の隣に立つ。
美紀も財布を持って立ち上がると、二人と一緒に教室を出て、購買部の方へ歩いて向かった。


「お、亮太じゃん、ばいばーい」

「土師ー、早よサッカー部入れよ~」

「亮太くん、またね!」


行き交う生徒たちが亮太へ声をかけては返す、その様子に美紀はうずうずとした感覚になった。


「す…すごいね!土師くん、人気者だ…!」

「え~?そうかな?」


美紀は目をキラキラさせて、隣にいる亮太を見上げる。