愛しのオオカミ

担当教員が入ってくると、まだザワつきを残しながら、自分の席に戻る生徒たち。
いまだ真っ赤な顔で肩を縮ませる美紀は下を向いたままだ。

チラッと亮太に視線を送りかけるが、恥ずかしさで背中から上を見られない。


(あんなこと言われるなんて思ってなかった…男の子の友達だから、こんなに恥ずかしいのかな…)


教員の指定するページを開きながら、鼓動の早さを感じる美紀。
すると、背中を突かれて、ビクッと肩が跳ねた。

振り返ると、修がノートだけ広げている。


「教科書がまだない。見せてくれ」

「う、うん…。先生、黒井くんに教科書見せます」


手を挙げて伝えると、女子のヒソヒソと話す声が聞こえてきた。
構わず、修が見やすいように横を向いて、開いたページを一緒にのぞき込む。

頬杖をついていた亮太は、顔だけ振り返って、二人の様子をじっと見た。

ページの解説をしながら黒板に書き込んでいく教員。
その話もいつしか美紀の中に入ってこないほど、修の方へ視線が向かう。


(綺麗な黒髪……まつ毛も長い……あ、ページ読んでる…)


修の表情だけではなく、動く目線を追いかける美紀だが、ついに鋭い視線と合ってしまった。


「…っ…」

「次のページ」

「あ…あ、うん。私、ノート写すからこのままでいいよ…」


急いでめくると、前を向いて黒板へ顔を上げた。
なんとなく、顔を上げる度に、クラス内の視線を集めているように感じて仕方ない美紀。

ようやく写し終えると、また修の方へ顔を寄せて教科書を見る。
すると、美紀の垂らしていた横髪を修が触れた。


「え…っ…」

「…読めない」

「…ごめんね…」


美紀は、意図を察して横髪を耳にかけ、眼鏡もかけ直した。
少しの気まずさを感じながらも、なんとか五限目を終えた美紀たち。

予鈴が鳴った瞬間に、待ってましたとばかりに、美紀の机に女性生徒たちが集まる。


「ねぇ!押花さん!さっきの土師くんの言葉どう思った!?」

「え、えっと…」

「おおーい。本人が困ってるのに、追撃禁止ー。聞くならオレにして~」


亮太の方へ友人が集まると、矢継ぎ早に質問が飛んだ。


「まじなの?本気なの!?」

「何が~?」

「押花ちゃんに!!」

「それは本人の前で言えないでしょ~」


黄色い声を挙げる女子の中で、今度は男子生徒が追撃する。


「亮太!押花さんは…押花さんは…!!」

「いやぁ~笑うと可愛いじゃん」

「お前みたいなツラがいいやつが言うと許されるんだよお!!」


ニコニコと笑ったままの亮太に、ハラハラしていると、また背中を突かれ振り向いた。