愛しのオオカミ

亮太は、自分の教室のある棟につくと、行き交う生徒たちの波を横切り、教室へ向かう。
ふと、談笑している金木を見かけ、すぐに足先を向けた。


「金木くーん」

「土師くん?なに?」

「いや、今朝さ、押花ちゃんと何話してたの?」

「…土師くんまで…特に何も、挨拶くらいだよ」

「……ほんとに?」


ニコニコと笑顔のまま答えを待つ様子に、金木も会話を思い出そうと口元に手を添えて考えた。


「挨拶して…あ、なんか、先週の金曜に話しがどうのって言ってた…人違いと思うけど」

「話し?」

「さぁ?よくわかんないけど」

「……そっか。ありがと。ほいお礼ね」

「え!?わ!…桃ジュース?」


金木の元から去る亮太から笑顔が消え、スタスタと教室に向かって歩いた。
クラスについても、まだ戻ってきていない美紀と修の席を見つめる。


「…あいつ…か…?」


ぼそっと呟いたあとに、小さく舌打ちをする亮太。
そして、ふーっと息を吐き、自分の席に座ると、頬杖をついた。


「亮太~、お前バスケの約束…どした?」

「いやぁ~…困ったなぁ…と」

「は?」

「オレ、バスケとかやってる暇がなくなりそう。ちょっと真面目にやろうかと」

「はぁぁあ!?」


二パッと笑っていると、美紀と修が戻って来る。


「押花ちゃ~ん、戻ってきてすぐごめんね~。教えてほしいところあって…」

「え?あ、うん。全然大丈夫」

「あ、良かったらこれ食べない?小腹満たしに」


美紀が席に近づいてくると、すぐに化学のノートと教科書を持って美紀の席へ。
個包装されたチョコのお菓子を机に置き、どうぞとすすめた。


「…ありがとう…土師くんも優しいね…」

「……それはどうも。オレ“も”、押花ちゃんには優しいよ~」

「ふふ、みんなに優しいの知ってるよ」


笑う美紀の様子を見て、少しホッとする亮太。
さっそくノートを見始めた美紀へ、理解不足の部分を教えてもらった。


「…てなるんだけど…どうかな?」

「うん!わかったと思う!」

「わかるまでやろう…!」


もう一度解説し直す美紀を横目に、読書にふける修に視線を向けるが、すぐにノートへ戻した。


「じゃあ、ここが反応するのって、酸素が関係するの?」

「うん!正解!」


大きく頷く美紀は、少しだけ笑みをこぼした。
お菓子を食べながら、亮太もふにゃりと笑う。


「オレ、押花ちゃんが笑うと癒される~」

「え…!?」

「オレの前ではもっと笑ってよ」

「……っ…」


顔を真っ赤にする美紀を見て、クラスが静まり返った。
予鈴を合図に、一気に亮太に詰め寄るクラスの男女。


「おい亮太!!おまっ、押花さんに…!」

「土師くん!?今のそういう意味なの!?押花ちゃん狙い!?」

「待って待って!!押花ちゃん照れてるの!?可愛い!!」