愛しのオオカミ


「おかえり押花ちゃ~ん…あれ、それ…」

「う、うん…!二人とも長い時間頑張ってるから…その、さ、差し入れ…!」

「お~ありがと~。めっちゃ頑張れる!ね~黒井くん?」

「……」


美紀から飲み物を受け取った二人は、さっそく開けて飲んだ。
ふと、亮太が美紀の分がないことに気付き、指摘する。


「押花ちゃん、自分の分買わなかったの?オレ買ってくるよ?」

「え、あ、大丈夫!忘れちゃっただけだし…土師くん、お昼にくれたでしょ」

「……」

「黒井くんも大丈夫だからね!?」


ガタっと立ち上がりかけた修は、美紀の言葉で座り直すと、ジトッと横目で亮太を見た。


「押花、解けたらから、見てくれ」

「うんっ。………うんっ。正解!」

「……」


修から受け取ったノートの問題の解答を見て、微笑みながらまたノートを返した。


「土師くんはどう?できた?」

「ん。できたよ~」


亮太のノートもじっくりと見ると、数問の解答を見て頷く美紀。


「…うん!二人とも正解!土師くんもすごいね、一回聞いてくれたくらいなのに、すぐに解けてる…」

「オレ、実はできる子なんかもね」


少し驚いた表情になる美紀の後ろで、放課後の予鈴が鳴った。
ふと、放送スピーカーに視線を向けると、亮太にノートを返した。


「それじゃあ…」

「……」

「今日はここまでだね~」


三人は、それぞれ帰宅する準備をすると、机を元の位置に戻し、教室を後にする。
下駄箱に向かって、三人並んで歩きだした。


「なぁんか、不思議な面子だよね~。押花ちゃんはまだしも、黒井くんなんて特に、全然群れないタイプって感じじゃん」

「……勉強で困ってたから…悪いか?」

「…いんや~?…でも、押花ちゃんが誘わなかったら、どうするつもりだったのかな~とは思うけどね」

「き、きっと、土師くんが今日みたいに勉強会に誘ってくれる…って、私は思うよ…っ」


立ち止まった美紀は、二人の背中に向かって、“きっと”の未来を言ってみる。
一歩先にいる亮太と修は、美紀へ振り返った。


「押花ちゃんが言うなら、そうなってた気がする~」

「……わからないときは、押花が教えてくれるのか?」

「う、うん…!」

「じゃあ、来週の月曜も勉強会だね、黒井クン」


チラリとお互いに視線を送る二人の様子が、少しだけ穏やかなようにも感じる美紀は、ようやく二人に並んで、また歩き始めた。
黙って歩く三人は、下駄箱に着くと、外靴に履き替える。


(…来週…勉強会……嬉しいな…)


「どしたの?押花ちゃん、笑っちゃって」

「え!?わ、笑ってた…?」

「うん」

「…えっと…その…う、嬉しいな…って」


恥ずかしそうに、でもついほころんでしまう口元を見せつつ、視線を泳がせながら美紀は口を開いた。