愛しのオオカミ


「えっと…ミルクティーとか、いいですよね…っ」

「…すみません…」


美紀は、ぺこっと会釈すると、肩を縮こまらせて店員の横を通り過ぎようとした。
しかし、店員から小さなメモ用紙を差し出され、足が止まる。


「い、いつも来るのが楽しみで…その…!よ、よかったら…!」

「…ごめんなさい…」


その言葉を残し、美紀は早足にコンビニから退店した。
そのまま駅の方向へ歩き出す。

駅構内の自販機で、冷たい水を購入すると、小さくため息をついた。


「あの!」

「……」

「お釣り、取り忘れてますよっ」

「…ありがとうございます…」


後ろで購入待ちをしていた女性から指摘されると、ササッと釣銭口からお釣りを取った。
ニコッと笑う女性に会釈をして、美紀はその場を去った。

電光掲示板で、電車の発車時間を確認する。


(あと五分…)


冷たいペットボトルの蓋を開けて、水を飲んでいると、先ほどに女性と目が合い、ヒラヒラと手を振られた。
口を離して会釈をすれば、女性が近づいてくる。


「ね、その制服、森林高校のよね?私も通ってたんだぁ」

「…はぁ…」


ニコニコと笑っていた女性から、視線を逸らして相槌を打っていると、顔を覗き込まれた。
美紀の肩がビクリと跳ねる。


「…やっぱり可愛いね。よく見かけるから、声かけたかったの」

「……」


気まずい顔になりつつ、ジリッとわずかに後退りかけるところで、電車が近づいてくる放送が入った。
放送直後に電車がやってくると、美紀は同時に女性から離れ、別の乗り口へすぐに移動した。


「あっ、ちょ、ちょっと…ねぇ!」


女性の呼び止める声は、電車の騒音にかき消される。
美紀は構わずバッグから眼鏡ケースを取り出すと、蓋を開けた。

太い黒縁の眼鏡をかけると、空になったケースをバッグに戻した。
度数は入っていないものの、視界が少し区切られることに、ほんの少しだけ安堵する。

美紀の前で電車の扉が開くと、降りて行く人たちを避け、すぐに乗り込んだ。
隅の方まで行くと、ポケットからスマホを取り出して、画面を操作した。

ニュース画面を見たり、ゲームなどの通知をチェックしたりして、じっと画面を見つめる。
気づけば、降車駅に到着しており、扉が閉まる前に急いで降りた。

肩にかけたバッグを持ち直すと、スマホをバッグに入れて駅を出た。


「……はぁ〜…」


駅を出てすぐに見える、美紀の通う高校“森林高校"が見える。
浮かない顔を俯かせ、重い足取りで学校に向かった。