愛しのオオカミ


「…よしっ、土師くんはわからないところあったら、いっぱい聞いてね!黒井くんはこっちの問題解いてみて」


顔を上げてノートを修に渡す美紀。
亮太は、美紀の言葉を聞いて、少し困ったように笑った。


「なはは…押花ちゃん、優しいねぇ~…」

「わからないとこは、一緒に考えるよ」

「……」

「…押花、この問題か?」

「うん」


美紀から視線を逸らした亮太は、ようやく黙々と問題を解き始めた。
チラッと時計を見ると、いつのまにか一時間も経っていることに気付く。


「ごめんね、ちょっとお手洗いに…」

「いってらっさい」


立ち上がった美紀を笑顔で見送る亮太と、問題を解き続ける修。
廊下に出た美紀は、お手洗いを通り過ぎて、階段を降り始めた。


(…友達と勉強…久々!……)


自然と口元が緩んでいる自分と抱いた言葉に気付くと、階段下で立ち止まった。


「…友達……」


急に恥ずかしさが込み上げてくる美紀は、自分の頬をつねって、購買部の自販機へと歩き出す。


(わー!そう思うの私だけかも…恥ずかしい…!!黒井くんはともかく、土師くんに失礼だ…!)


自販機の前に着いて見上げると、二人が飲みそうな飲み物を選ぶ。
しかし、好みがわからないうえに、自分が選んだ飲み物を飲んでくれるか不安になった。


(うーん…土師くんは炭酸…?黒井くんは、こっち買ってた気が…)


半分は運任せに炭酸ジュースとスポーツ飲料を購入した。
そして、自分の分の桃のジュースを買うために、お金を入れ始めた。

「お、押花さん…!」

「……?」


後ろからの呼びかけに、振り返る美紀。
そこには、同じクラスだが、あまり話したことのない男子の金木が立っていた。

緊張した面持ちで、美紀のそばにやってくる金木。


「あの…!そ、はなっ、話があって…!」

「…?うん…?」

「ぼ、僕!押花さんのこことっ、あんまり話したこと、な…ないけど…す、好きです…!!」

「…金木くん…」

「だから…!!」


顔を上げた金木の目に美紀が映った。
お金を入れかけていた自販機からは、残高が足りないまま一定の時間が経ったため、お釣りがチャリンチャリンと落ちる音がする。


その音に気付いた美紀は、慌ててズレていた眼鏡をかけ直した。


「あのっ、金木くん…その、ご、ごめんね…!」

「………」


お釣りを取って、金木の横を通り過ぎる美紀の顔は赤かった。
小走りで廊下を走り、階段を駆け上がると、自然と息が上がる。


「…はぁっ…はぁっ…」


美紀は自分のクラスの階に着くと、深呼吸をして息を整えて、3組のクラスに入って行った。