「押花、数学のノート見せてくれ」
「…っ、うん…!」
後ろからの修の声に、肩がビクリと跳ねた。
桃のジュースも飲み終わらないうちに、慌ててバッグからノートを取り出して修に振り返って渡す。
修はノートを受け取ったあと、すぐに開いて黙々と読み始めた。
ノートよりも、美紀の視線は修に注がれる。
「……」
「っ…」
「ここ、まだやってないとこなんだ。教えてくれ」
「う、うん…」
急に修が視線を美紀に向けたため、バッチリと交わされて、慌てて眼鏡をかけ直すとノートに移した。
「えっと…ここは…ー」
熱くなる顔に気付かれないように、横に垂らした髪を少し触る。
修は、美紀の解説を聞きながら、ノートと手元の教科書を交互に見ながら黙って聞いていた。
「ー…ということなんだけど……」
「なるほど。わかった」
「え!?ほんと?」
「あぁ。わかりやすかった」
ホッとした美紀にノートを返すと、修はそのまま教科書の設問に、直接書き込んでいく。
美紀も前を向くと、桃のジュースを飲んだ。
(黒井くん、努力家だなぁ…進学希望なのかな…)
ふと、今朝もらった進路希望調査のプリントに触れる。
予鈴が鳴るのに気づくと、残っていた桃のジュースを慌てて飲み干した。
…ー
帰りのホームルームが終わると、教室内の生徒たちはバラバラと動いて行った。
勉強会を言い出した亮太は、友達と話しながら教室を出ていく姿を見かけたが、バッグがあるので戻ってくるのがわかった美紀。
机に置いたバッグから三冊の本を取り出すと、緊張しながら修へふり返って差し出した。
「黒井くん、この前言ってた山本先生の本…!こっちが現代もので、これが短編集、これはファンタジーもの」
「……」
三冊分の本を受け取ると、一冊ずつ、最初のページを開いて読んだ。
緊張からドキドキワクワクな気持ちを感じる美紀は、修の反応に凝視した。
「……全部借りていいか?」
「え!?うん!…どれか気になったのあった…?」
「短編の方だな。なんとなく、関先生の本に似てる感じがある」
「そうっ、そうなの!短編だからかな、不思議な…ちょっと魅惑的な感じというか…そんな展開が関先生のシリーズ本と似て…!」
笑みを見せて話していた美紀は、早口な自分に恥ずかしくなって、顔を下に向ける。
「似てる、な」
「…うん…」
「なぁんの話?」
横から声をかけられ、パッと顔を上げると、いつの間にか戻ってきていた亮太がいた。



