愛しのオオカミ

…—

それから翌日の朝、2年3組の教室に入った美紀は、教室内のドアを開け始めた。
すると、後ろからガタっという音に気付いて振り返る。


「はぁっ、はぁっ…まーた押花ちゃんが一番だっ」

「土師くん…お、はよう…」

「はよっ!」


少し汗をかいているのか、服でパタパタと風を送る亮太は二パッと笑った。
美紀は、助けられたことや泣き顔を見られたことを思い出し、気恥ずかしくなって、目線を逸らしながら朝の挨拶をする。


「ふ~…途中で見かけたから急いだんだけど……っ…」

「……土師くん?大丈夫…?」


教室に一歩入った亮太は、その場にしゃがみ込んだ。
心配そうに美紀が駆け寄ると、亮太の額に汗が見えたが、数秒遅れて顔を上げて笑顔を見せる亮太。


「いや~!オレ頑張った!なはは」

「少し保健室で休んだら?」

「ん~や、もう大丈夫、大丈夫。あ、オレも手伝っていい?」


ゆっくり立ち上がると、自分の席にバッグを置いて、美紀が途中まで開けていた窓の隣から開け始めた。


「おーっ、風邪気持ちいい~!」

「土師くん…」

「いいね!押花ちゃん、いっつもこんな気持ちいい風受けてんの?」

「…え…あ…うん…」


笑顔の顔を振り向けてくる亮太を、差し込む日差しのようにまぶしく感じる美紀。
思わず、顔が赤くなり顔を逸らしながら、眼鏡をかけ直すフリをする。

亮太が窓を開け終えて、いつもの様子に戻ったのを確認すると、美紀は内心心配しつつも、花瓶を持って教室を出た。


「オレも見てていい?」

「う、うん…」


手洗い場につくと、花を取って水を入れ替える。
そっと、枯れかけている一部の花を含めて、優しく持って挿すと、丁寧に整えた。


「……花、好きなんだね。押花ちゃん」

「うん…綺麗だし……見てると……」

「…?」

「…ううん、なんでもない」


そのまま花瓶を持って、亮太と二人で教室に戻った。


「押花ちゃん、今日の放課後からさ、勉強会…で大丈夫?」

「うん。大丈夫だよ」

「あとさ、現国の課題終わってなくて…わかんないとこあったから、教えてほしい…です」

「現国…今日の一限目だよ?」

「そう!そうなの!読書の邪魔しないから!押花ちゃんの席でやらせて!わかんないとこ教えて!」


後ろ棚に花瓶を置いていると、半べそになりながら必死にお願いしてくる亮太。
クスっと笑うと、美紀は快諾した。


「そんなに難しい課題じゃなかったから、すぐに終わるよ」

「いや~…オレ勉強苦手だからさ~…はぁ…押花ちゃんに呆れられるくらい悪いかもしんない…」

「そんなこと思わないよ」


美紀が席に着いて本を出し、亮太が隣に椅子と教材を持ってくる。