愛しのオオカミ



…—


朝の日差しが、カーテンのすき間から差し込むと、顔を歪めさせて押花美紀(おばなみき)を起こした。
ボーっとした表情で目を開けて、ゆっくりと体を起こす美紀。

上半身だけ起こすと、しばらくぼんやりとドアを見つめた。


「……あ、起きなきゃ…」


ぽつりと呟けば、ようやく頭が冴えてきたことを認識した。
まだ眠い目を擦りながらも、寝間着のTシャツを脱いで、制服に着替える。

部屋のドアを開けると、トントンと何かを刻む音が聞こえてきた。
音の方へ向かい、顔を出すと台所に背中の小さな老婆が立っていた。


「おばあちゃん、おはよう」

「…おはよう美紀。顔洗っておいで」

「うん」


美紀は言葉通りに洗面所へ向かい、タオルを用意すると、顔を洗った。
眠そうだった目はようやくぱっちりと開かれる。


「ふぅ…」


タオルで顔を拭いたあとは、背中の真ん中まである髪を梳かして、三つ編みにした。
収納されている靴下を取って履くと、台所に戻った。


「はい、みそ汁と卵焼きね。昨日の煮物も出そうねぇ」

「朝からいっぱいは食べられないよ」

「ちゃーんと食べていかんね」

「ありがとう」


クスっと笑った美紀は、出された煮物に少しだけ箸をつけた。
あたたかいおみそ汁も飲んだり、卵焼きとご飯を一緒に食べたりして、食事を進めた。


「今日も早く行くんかい?」

「う、うん。予習したいから…」


おばあちゃんは使った調理器具の洗い物をしながら、ふふっと笑う。


「美紀は頑張り屋さんやねぇ。しっかり者だぁ」

「あはは…おばあちゃんのおかげだよ。ごちそうさま」


手を合わせたあと、食器をおばあちゃんに渡し、鞄を持った。
着けていた前掛けで両手を拭きながら、玄関まで見送りに来るおばあちゃん。


「気ぃつけてね。変な人について行かんように」

「うん、いってきます」


少し微笑んだ美紀は、玄関のドアを開けて外へ出る。
初夏も近づき始める5月の朝は、まだ少し肌寒さがあった。

長袖のセーラー服に感謝しながら、美紀は駅に向かって歩き出した。


(コンビニ寄ろうかな…)


通り過ぎる自転車から受ける追い風に、温かい飲み物を考えて、見えていたコンビニへ向かう。

入店の音と共に、店に入ると、レジ前に陳列されているホットドリンクを眺める美紀。


(……お茶…あ、レモンティーもいいなぁ…)


「あ、あの…!」

「……」


手を伸ばしかけたところで、声の方へ振り返れば、レジから出てくる男性を見上げた。


「き、今日は少し冷えますよね…!」

「は、はぁ…」


ぎこちなく笑う男性から視線を逸らし、美紀は当たり障りのない返事をした。
照れつつも笑顔を保つ男性は、ホットドリンクへ視線を向ける。