愛しのオオカミ

修へほうきを渡し、別々に机の間を掃いた。
教卓の近くを掃き始めると、先ほどの女子生徒が、美紀へこそっと耳打ちする。


「ね、押花ちゃん、黒井くんってどんな感じ?うちらが話しかけても何も返してくれなくてさー。押花ちゃんにはなんか話してたみたいだから…」

「え…うーん…普通、だと思うよ?」

「あとさ!土師くんとどうなの?さっきも勉強教えてたみたいだけど…付き合ってる感じ?」

「え!?ち、違うよ…!」

「あ~!照れてる可愛い~!」


赤くなる顔を下に向けて、ほうきの柄を握りしめた。


(土師くんと…そんな風に見えるんだ…どうしよう…土師くんに迷惑が…)


「押花。塵取りくれ」

「…うん…!」


修の声掛けにパタパタと駆け寄っていく美紀は、言及されないことにホッとした。
塵取りを持って、修の前に屈むと、ごみを入れやすいように、少し斜めに持つ。

丁寧にゆっくりと、塵取りの中にごみを入れていく修。
ある程度取れたら、立ち上がった美紀から塵取りを取り上げて、ごみ箱へ向かった。


「ありがとう、黒井くん」

「…いや」


美紀が持っていたほうきも取ると、自分の分も含めて掃除用具入れのロッカーへ入れた。
そして、バッグを持って先に教室から出て行った。


「はぁ~…黒井くんのあの冷たい感じ…イイ…」

「でも、ちょっと近寄るなオーラすごくない?」

「そこがいいんじゃん!」

「……」


修の背中を見送ったあと、自分の分の掃除を終えた美紀も、バッグを持った。


「押花ちゃんばいばーい」

「また明日…」


女子に少しの笑みを見せて教室を後にする美紀。


「はぁ~…押花ちゃんもイイ…」

「あんたさぁ…まぁ、わかるけど」

「わかるんかい。でもちょっと、土師くんと黒井くん、バトってる感じない?押花ちゃんとで」


その一言で、互いの顔を見合った女子たちは、黄色い悲鳴を上げて笑った。



「はぁっ…はぁっ……歩くの、早い…っ」


急ぎ足で修の背中を探すものの、なかなか見つけられない美紀は、息を整えるために玄関口付近で立ち止まった。
ずり落ちてくる眼鏡をかけ直して、バッグを持ち直す。


「押花ちゃん!」

「…?」

「良かった~!会えてラッキー…ほら、この前びっくりさせちゃったじゃん?謝ろうと思ってさ~」


まだ息も整わないうちに振り返ると、先日の上級生のひとりがやってきた。
体が強張る美紀は、声が出ずに肩で息を続ける。

微かに吐息がもれる様子を見た上級生は、鼻の下を伸ばした。


「あの…ごめんなさい、急いでるので…」

「そ、そんな風に言わなくてもさ…!?」


美紀へ伸ばされた腕を亮太がガシッと掴む。
その表情は美紀からは見えないが、無表情で上級生を見下ろしていた。


「触んなつったろうが…」