愛しのオオカミ

席に戻る美紀と修。
亮太は機嫌よく美紀の席に、自分の椅子を持ってきた。


「おい亮太!押花ちゃんの邪魔すんなよ!?」

「勉強教えてもらうんだよー」


後ろの野次に舌を出して応戦すると、ふと美紀の表情を伺う亮太。


「あ…したいことあったら言ってね?本借りてきたんでしょ?」

「うん…大丈夫。わからないとこどこ?」

「…うーんと、ここ…の長文。訳してみるけどわけわかんなくなってさ~」


気遣ってくれる亮太に、首を振って、開いたノートと教科書を覗き込んだ。
そして、美紀もノートとペンを取って、解説を始めた。


「ここが過去形になるから…ー」


自分のノートに書きこみながら解説を終えると、亮太は目を輝かせてノートを眺めた。


「押花ちゃん…天才だぁ~」

「い、今の説明でよかったかな?」

「すっっごくわかりやすかった!!あと、聞きやすい声だった!」


満面の笑みで嬉しそうにお礼を伝えてくる亮太を見て、美紀は照れくさくなって視線を逸らす。


「押花ちゃんの解説わかりやすいし、声も綺麗だから、勉強会が楽しみになりそうだな~」

「そんなこと…でも、役に立てて良かった…」

「お。もう昼休み終わりか~。ありがとね、押花ちゃん」

「うん。どういたしまして。…あと、私の方こそありがとう」

「ん~?なんのこと?」


席を立つ亮太は、何食わぬ顔で椅子を持って、自分の席に戻った。
予鈴の音を聞いていると、すぐに英語担当の教員が入ってきて、授業が始まった。

途中、亮太を指名して設問の答えを求められたが、美紀に教えてもらったところだったようで、自信ありげに答える。
そして、美紀の方へ振り向くと、ピッとピースサインをして笑った。


「ふ…」


少しふき出してしまった美紀は、クスっと笑って肩を震わせた。
その様子を、頬杖をついてじっと見ていた修。

美紀への視線から、亮太へ移す。


「……」





それからは、六限目まで終えると、ホームルームに入った。
担任が連絡事項を伝えて、帰宅となったが、美紀はバッグを持つ修を呼び止めた。


「あの、黒井くん…私たち今日」

「掃除当番だよ!黒井くんっ。押花ちゃん、黒板掃除一緒にしよ~」

「押花ちゃんが汚れるからダメ!ほうき係やってもらうの」

「じゃあ…黒井くん、私たちと一緒に」

「いや、俺もほうき係でいい。押花、掃除道具はどこだ?」


明るく誘おうとする女子たちをすり抜け、修はバッグを置いて美紀のそばに立つ。


「…あ…こ、こっち」


教室の後ろの掃除用具入れのロッカーに向かい、ほうきと塵取りを取り出した。