愛しのオオカミ


「はい、じゃあ一週間後ね」

「ありがとうございます!」


美紀は貸出票が挟まれた本を受け取ると、早足に図書室を出る。
窓側をチラチラと視線が向き、修の黒髪と背中を見つければ、息を切らせながら走った。


「はぁっ、くろ…はぁっ…黒井くん!」

「……」


美紀の呼びかけに、修はゆっくり振り返って立ち止まった。
肩で息をする美紀の姿を、じっと見つめる修。

顔を上げた美紀の表情はパァッと明るかった。


「関先生の本、好きなの!?」

「…え」

「おもしろいよね!シリアスな場面が多いし、ミステリーっぽい謎解きみたいなのが散りばめられてるけど…最後はハッピーエンドで終わるから、あったかくなるよね!黒井くんはどう!?」

「……」


嬉しそうに話していた美紀は、ハッと気づいて、恥ずかしそうに顔を赤くする。
少し垂れた横髪を耳にかけながら、下を向いて赤い顔を隠した。

しかし、修の反応が気になるため、視線だけが上を向く。


「…あぁ。同じだ」

「……!」


わずかに、笑みを見せる修から、柔らかく優しい眼差しを向けられた。
ドクッと胸が高鳴る音を感じる美紀。


「…?」

「関先生の本は、良い。起承転結も綺麗だ」

「あ…うん!わかりやすいんだけど、そこがいいというか…うん、綺麗って思う」


嬉しそうに話を始める美紀を見ると、修が歩き出し、その横に並んだ。


「私、関先生のデビュー作の短編集が一番好きで…あんなに短いのに、表現が綺麗でスラスラ読めちゃって」

「短編は読んでないな。長編作は読んだ」

「え!おすすめだよ!ここの図書室にはないんだけど、よかったら貸すよ!?」


修の横から顔を出すと、修が一瞬止まった。


「あっ…ご、ごめんね…黒井くんがよければの話…あ…」

「…借りる。押花のおすすめなら、読む」


うっかり本を落としてしまい、拾おうとしゃがんだ。
修が屈んで、先に拾い上げると、優しい眼差しのまま美紀に渡す。

思わず見入ってしまうような修の瞳に、美紀はくぎ付けになった。


(……綺麗…)


修から本を受け取ると、ようやく視線を逸らした。
気付けば、クラスの階に着いていたようで、自分の教室に戻る生徒をチラホラと見かける。

二人揃って教室に入ろうとしたところで、修は亮太とぶつかった。


「…って…。悪い悪い」

「……」


笑って謝った亮太の目が、一瞬、鈍く光って修を見た。


「黒井くん?…あ、土師くん」

「…押花ちゃん、お帰り~次の英語でわかんないとこあんだけど、教えてくんない?」

「う、うん…」


修の後ろから美紀が顔を出すと、亮太は二パッと笑った。