愛しのオオカミ


「あ…こ、ここが図書室だよ」

「……」


出入口を指差すと、修は構わず行ってしまった。


(何考えてるのかわかんないや…)


遅れて美紀も入室すると、左端の机に座る莉奈と目配せした。
係りの生徒に返却本を差し出して、そのまま本棚を見て回る。


(関先生のシリーズは読んだけど…もう一度読もうかな…)


後ろからトントンと叩かれ、バッと振り返った。


「やっほー、押花ちゃん。俺、覚えてる?」

「え…あ……」

「あぁ、ごめんごめん、やっぱ覚えてないよね!1年のときに同じ委員会だった吉村!」

「………」


ふくよかな体型の男子が話しかけてくるものの、美紀はまったく覚えがないため、視線が泳ぐ。
かけ直す眼鏡が下がっているのが見えると、吉村と名乗る男子は美紀に手を伸ばした。

グイッと力強く肩を掴まれて、体が後ろに下がる。


「…黒井く」

「気安く触るな」

「なんっ………はい…」


修の睨みと呟きに怯んだ吉村は、そそくさとその場を離れ、すぐに図書室から出て行った。
そして、パッと美紀を離すと、また鋭い眼差しで見つめてくる。


「…あの」

「気をつけろ、と言ったばかりだ」

「……」

「美紀っ」


二人の後ろから、莉奈が声をかけてきた。
途中から見えた様子で、黒井を少し警戒する莉奈。


「…美紀、あっちの本見よう」

「う、うん…」


美紀の手を引いて隅の方にやってきた莉奈は、振り返って心配した。


「大丈夫!?はい、資料集ありがと。てか、本当ごめん!私もうっかりしてた…クラスは大丈夫そう?」

「私は大丈夫だけど…莉奈が…」

「んー、今のところは特に誰からも何も言われてないから、大丈夫だと思う」


不安そうな表情で莉奈を見つめる美紀。
莉奈はニコッと笑って、美紀の手を握った。


「大丈夫!何もないって!本選ぼっ」

「…うん…」


不安が治まらない美紀は、ずっと暗い顔で本を選んだ。


「そういえば、さっきのが転校生?イケメンだし、学年じゃ見ない顔じゃん」

「あ…そう。黒井くんっていうの」

「あれは女子が騒いで正解じゃん」


笑いながら本選びに付き合う莉奈は、ようやく決まった本を二冊取った美紀に、先に戻ることを伝えて出て行った。
貸し出しの手続きをしてもらう列に並ぶと、気づけば大きな背中が目の前にあった。

修が一冊の本の貸し出し手続きをしてもらっている。


(…あ、関先生のシリーズ…)


自分が読んだことのある本を持つ修を、ちらりと見上げた。
すると、視線に気づかず、修は出入口の方へ歩き出した。

美紀の順番が来ると、司書からクスクスと笑われる。


「関先生の本、人気ね~。押花さん、何回目かしら?」

「だっておもしろいですよ。関先生の物語」


淡々と手続きが進むものの、美紀はソワソワしながら出入口を見た。