愛しのオオカミ


「6月入ってちょっとだよね~。もう明後日から始めない?オレ頭良くないのには自信あるし」

「えっと…そうだね。でも、勉強すれば成績も上がるよ」

「押花ちゃんがオレを慰めてくれてる!ありがとう!」

「亮太ー!お前、昼休みバスケやるかんな!」


教室の廊下側の窓から別クラスの男子生徒数人が亮太に声をかける。
振り返る亮太は、パンを食べながら、ひらひらと手を振って返事を返した。


「…相変わらず人気者だね、土師くん」

「そう?押花ちゃんの方がモテるじゃん」

「……そう…かな……」


目線を落とすと、残り少なくなった弁当のご飯とおかずを見つめる美紀。


「そうそう。毎朝早く来て、花瓶の水替えてさ~。少なくとも、オレからはモテてるよ?」

「…ぷっ…ふふ…」


自分自身を指差す亮太の言葉に、美紀は思わず吹き出して、クスクスと笑ってしまった。
教室内が一気にザワザワし始める。


「押花ちゃん笑ってるよ~!かわい~!!」

「さすが亮太くんだよね、あの押花ちゃん笑わせるとか…あの二人推せる!」

「わかる~!!」


ハッと気づいた美紀は、咳ばらいをすると、残りのお弁当を食べた。


「えっと、じゃあ、勉強会は明後日の放課後から、ね」

「ん!ありがとね、押花ちゃん!」

「ううん、役に立てるなら嬉しい」


亮太も自分の昼食を終えると、席を戻して教室から出て行った。
美紀も弁当を包み直し、バッグに入れて返却する本を取り出す。

席を立ち上がると、修に振り返った。


「黒井くん、図書室…に……」


机に伏したまま反応のない修に、少し戸惑った。
迷いながらも、肩をトントンと指で叩く。

しかし、反応がないため、手のひらを使って修を起こそうとした。


「く、黒井くん…!」

「……押花…?」


うっすらと目を開ける修に、名前を呼び捨てにされた驚きで固まりかける美紀。


「…え…っと、図書室、行こう?」

「……あぁ」


美紀に返事をすると立ち上がって、一緒に教室を出た。
一階まで降りて、別棟へ渡ると、静けさのある廊下を歩いた。

黙ったまま並んで歩いてくれる修に、目線を上げる。


「黒井くんは、どの本…好きなの?」

「…いろいろ」

「そ、そっか…」


その会話だけで、また沈黙に戻ってしまう。


(土師くんみたいに、もっと上手く話せたらなぁ…)


ふと、土師からもらったくしゃくしゃの手紙を思い出し、ポケットに手を入れた。
いまだ、その感触が残る手紙は、美紀を励ましてくれるようだった。

少し歩いて進むと、図書室前についた。