愛しのオオカミ

莉奈とのことを心配する美紀は、授業の内容が頭に入ってこない。
コンッと紙くずが斜め前から飛んできた。

「……」

「……」


顔を上げれば、顔だけを美紀に向ける亮太が笑った。
くしゃくしゃの紙を広げると、美紀は亮太をもう一度見る。

しかし、すでに前を向いており、視線が交わされることはなかった。
美紀はしわくちゃな紙を丁寧に四つ折りして、ポケットに入れた。


【大丈夫だよ】


そう書かれていた言葉に、ホッとしてしまう美紀。


(土師くん、ありがとう…)


まだ一抹の不安はあるものの、美紀は授業に集中した。


それから、授業が終わると、数人の女子が美紀の机に集まる。
教科書を机に入れていた美紀は、ゆっくりと顔を上げた。


「ね、押花ちゃん。さっきの5組にいる子だったよね?」

「仲良いの?」

「なかなか見ない組み合わせで意外〜。あの子どんな子?」


ゴクリと固唾を飲んだ美紀は、口を開いた。


「…あ」

「なぁんの話?あ。押花ちゃん、ごめん英語のノート見せてくんない?昨日のとこ写せてないのがあってさ〜」

「ねぇ、土師くんもさっきの見たでしょ?あの子気になるよね!?」

「ん〜?別に〜?うおっ、見て見て!押花ちゃんのノートめっちゃ綺麗!ちょ、まとめ方のコツ教えて!?」


美紀が渡したノートを見せる亮太。
女子たちの視線は、美紀のノートに移った。


「わっ!ほんとだ!」

「わかりやす〜!」

「あはは…そ、そうかな…」

「ここで写してっていい?」

「あ、う、うん…」


ニッと笑う亮太は自分の席からノートと椅子を持ってきて、美紀の横で書き写し始めた。
そして、顔を上げて女子たちに、ビシッと指差す。


「君たち、ボクは今書き写しに忙しいので、解散解散!」

「何そのキャラ…」

「押花ちゃん、私も今度ノートの取り方教えて?」

「私もー!」

「う、うん…あはは…」


机に戻っていく女子たちを見送ると、チラッと亮太へ視線を向けた。


「…大丈夫って言ったじゃん」

「…あ…りがとう…」


美紀の視線に気づいていたのか、亮太は書き写しながら、吹き出して笑った。
すると、後ろの修がガタッと立ち上がる。

ビクッと肩が跳ねる美紀。

修は、二人の方へ一歩踏み出すと、美紀と亮太のノートをじっと見た。


「……」

「黒井クンも見る?」

「…見た」

「…あ。そう」


その一言を返すと、亮太は構わず書く手を止めない。
美紀が修を見上げても、修はずっとノートを見ていた。


「…黒井くん、英語苦手?」


ふとした疑問が口から出たため、美紀は慌てて口を塞いだ。