喫茶 たゆたい探偵所


 何年ぶりだろう……

 みさきちゃんに逢うのが嬉しいような、怖いような複雑な気持ちでいた。



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 みさきちゃんはいつも淋しそうに一人で砂場で遊んでいた。周りにいる園児はみさきちゃんを気にかけることもなく、友達同士で楽しそうにしていた。

 そんな状況がとてもイヤで、私は名前もクラスも知らなかったみさきちゃんと遊ぶことに決めた。


「ねぇ、なにつくってるの?」

「わたしは『もりしたゆい』。あなたは?」


 みさきちゃんは『ハッ』とした顔をして私を見ていた。

 そして「わたしにいってるの?」と、自分の顔を指差し、聞いてきた。


「うん、あなた。なまえをおしえて」


 私はいつものように普通に聞いたつもりだった。

 するとみさきちゃんは顔を歪ませ、涙を流していた。


「わっ、わたしは……よっ、よしざわ…みさき」

 涙目でしゃくりあげながら自分の名前を一生懸命言ってくれた。


「みさきちゃん、いっしょにあそぼ」


 よほど嬉しかったのか、いつも淋しそうにしていたのに、私と話しているときのみさきちゃんはずっと笑顔だった。

 私自身、砂遊びはあまり好きではなかったけど、みさきちゃんの笑顔を見ているだけで楽しかった。


 ある日、いつものようにみさきちゃんと砂場で遊んでいると、よしの先生が私たちの所に来た。


「ゆいちゃん。いつも一人でしゃべっているけど、おままごとをしているの?」


 先生の言っていることが分からなかった。

 だって、みさきちゃんがいるのに『一人』って。


「みさきちゃんとあそんでいるんだよ」

「いっしょにおしろをつくろうってがんばっているけど、むずかしいの」


 私は、みさきちゃんに向かって「ねー、みさきちゃん!」と話しかけると、みさきちゃんは「うん。ふたりでがんばるっ!」と、満面の笑みで答えてくれた。


 みるみるうちに先生の表情が曇っていくのが分かった。

 私は気にすることもなく一生懸命に穴を掘り、砂を盛り続けた。


「ゆいちゃんっ!」先生が怖い顔をした。


 その声にびっくりし、手に持っていたシャベルを落としてしまった。


「ちょっと一緒にきて」


 強引に手を掴まれ、砂場から遠ざけるように教室内に連れて行かれた。



「ゆいちゃん、近くに誰かいたの?誰と遊んでいたの?」


 先生は真剣な顔をして聞いてきた。


 ちょっと怖かったけど、私は正直に答えた。


「みさきちゃんだよ。せんせーしらないの?」

「いつもひとりですなばであそんでるからいっしょにあそぼうって、ゆいがいったの」


 それを聞いた先生は何も言わなかった。

 ただ、「もうすぐお母さんが迎えにくるから手を洗いましょう」と、洗い場に連れて行かれた。


 しばらくすると、お母さんが迎えにきた。

 私がお母さんに走り寄ると、よしの先生は

「ゆいちゃんのお母さん、ちょっといいですか?」と、困惑した顔でお母さんに話しかけた。


「ゆいちゃん、先生はお母さんと話があるからここで少し待っていてね」

 私は教室で待つように言われた。


「じゃ、みさきちゃんとあそんでいるね」そう伝えると、先生は「だめです!ここで待っているんですよ」と、普段見ないような怖い顔をしていた。


 いつもは優しいよしの先生が怒っていたので、私は誰もいない教室で一人待つことになった。

 しかし、みさきちゃんが気になり、そーっと窓から砂場を見た。


 やはり、みさきちゃんは淋しそうに一人で砂をいじっている。


「みさきちゃん……」


 あの顔を見ていると、私まで悲しくなる。


 しばらくすると、先生とお母さんが教室に入ってきた。お母さんは困ったような顔をしていたけど、私はお母さんに思いっきり笑顔を見せた。


「おかあさん、きょうもすなばでみさきちゃんと……」


「ゆいちゃん!」先生が私の話を遮った。

「その、みさきちゃんの話はもうしないでね。それと、砂場で遊ぶのはやめましょう」

 先生は、また怖い顔をして私に言ってきた。


「だって……みさきちゃんとやくそくしたもん。いっしょにおしろを……」

 私は悲しくなり、涙をこらえながら先生に訴えた。


「ねぇ、結依。友達の約束も大事だけど、先生との約束も大事なのよ」

 お母さんは目線を合わせるようにしゃがみ込み、私に話しかけた。


「でっ、でも……みさ…」泣き声をこらえ、訴えようとしたが、先生の『みさきちゃんの話はもうしないでね』の言葉が脳裏をよぎった。


 なんで、先生は怖い顔でみさきちゃんと遊んじゃいけないって言うの?

 なんで、お母さんは先生の約束を守るように言うの?

 なんで、みさきちゃんは一人でいないといけないの?


 色々なことが頭の中を駆け巡って、わけがわからなくなってしまい、私は大声で泣いた。



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 あれから、何ヶ月か経った。

 砂場に行くことを禁じられた私は教室内で友達と遊んでいた。

 それはそれで楽しかったが、みさきちゃんのことが脳裏から離れなかった。

 たまに教室から砂場を見ることがあるが、みさきちゃんがいないことが多くなった。


「みさきちゃん……」


 一緒に遊んでいると、いつも笑顔で話しかけてくれる。


『わたしねー ゆいちゃんがともだちになってくれてうれしかったんだー』


 そんなことを何度も何度も言ってくれた。


「わたしもだよ。みさきちゃんのえがおもだいすきだし、いっしょにいてたのしいもん」


 照れながら本心を口にした。


「ほんとにー? じゃあ、しょうがっこうにいってもいっしょにあそんでくれる?」


 みさきちゃんが目を輝かせて聞いてきた。


「うん!しょうがっこうにいってもいっしょにあそぼ! しょうがっこうはおかあさんにおくりむかえしてもらうんじゃなくて、じぶんたちでがっこうにいくんだって。だからいっしょにがっこうにいこうね」

「えー、ほんとうに? ゆいちゃんといっしょにがっこうにいっていいの?」

「うんっ!」


 私はみさきちゃんに負けないくらいの笑顔で返事をした。


 みさきちゃんの笑顔は例えようがないくらい、可愛くて素敵だった。

『みさきちゃんと友達になれて本当によかった』と、心から思えた。



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 今日もみさきちゃんはいないのかな……

 いつものように砂場を見た。


「あっ!」いた。みさきちゃんだ。


 みんなで歌の練習をしていたが、私は教室を飛び出した。


「みさきちゃんっ!」

 私の言葉に、みんながキョトンとしている。


「ゆいちゃん、ダメよ!」

 よしの先生が走り寄ってきて、手を握られた。


「わたしはみさきちゃんとあそぶのっ!いっしょにおしろをつくるのー!」

 先生の手を振り切り、靴も履かず砂場へ向かった。


「みさきちゃん、ごめんね。いっしょにつくろう」


 私は近くにあったシャベルを握りしめ、一生懸命に穴を掘った。


「うんっ!」みさきちゃんは笑顔で……泣いていた。


「ゆいちゃん!ダメって言ったでしょ!」数人の先生がこちらへ来た。


 砂場から遠ざけようと私は抱えられた。


「やーだー!みさきちゃんとあそぶのー!」


 手足をブンブン振り回し、抵抗したが敵わなかった。


「たすけてー、みさきちゃん!」


 救いを求め、みさきちゃんに手を伸ばした。



 みさきちゃんはいつもの淋しそうな顔で私を見ていた……



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