私が生まれた場所には、いつでも幸平の匂いが満ちていた。
お日様の匂いと、少し甘い石鹸の香り。
それが、幼い私の世界の匂いだった。
私たちが育ったのは、穏やかな風が吹き抜ける閑静な住宅街の一角にある、二軒並んだ家だった。
橘家と神楽家。
お庭を隔てる小さな木製のフェンスはあってないようなもので、小さな頃の私にとって、二つの家はまるで大きな一つの家のように繋がっていた。
「瑠華ちゃん、ごめんねぇ。幸平を起こしてきてくれる? 今日も全然起きてこなくて、おばさん困っちゃって。」
朝、神楽家のおばさんの困り果てた声に元気に頷いて、私は自分の家のように神楽家の玄関をくぐり、使い慣れた階段を2階へと駆け上がる。
ドアノブを回して部屋に入ると、ベッドの上でタオルケットを頭までかぶって丸くなっている小さな男の子の姿があった。
カーテンの隙間から差し込む眩しい朝の光を浴びながら、私は助走をつけてその丸い背中にのしかかるように飛び乗るのが毎日の日課だった。


