冬の雨の日から、数ヶ月が過ぎた。
あの雨の中でお互いの泥まみれの本音をぶつけ合ってから、幸平は変わった。
一人になる恐怖を誤魔化すために誰彼構わず女子と付き合うのを完全にやめ、自分自身の心と向き合う時間を選んだのだ。
周囲の冷やかしや噂話に対しても、幸平はもうヘラヘラと笑って誤魔化すことはしなかった。
「俺、ずっと好きな奴がいるから」
と、はっきり周りに伝えるようになった幸平の瞳からは、あの空洞のような暗い影が消え、昔のようなまっすぐで力強い光が戻っていた。
そして訪れた、高校2年生の春。
桜の蕾が一気にほころび、心地よい春風が街を吹き抜ける新学期の朝。
制服に腕を通し、鏡の前で深呼吸をしてから玄関のドアを開ける。
橘家の敷地を出たところで、私は足を止めた。
神楽家のフェンスの前に、ひとりの男の子が立っていたからだ。
朝日を浴びながら、少し緊張した面持ちで佇む幸平。
視線が交わると、幸平はどこか照れくさそうに、けれど優しく微笑んだ。


