世界で1番近い君と、1番遠い初恋


​放課後、図書委員の仕事を終えた私は、他学年の運動部の先輩に
「少し話がある」
と呼び出され、校舎裏の木陰へと向かった。

夏の風が葉を揺らし、木漏れ日が揺れている。


​「橘さん、突然呼び出してごめん。……俺と、付き合ってほしい」


​汗ばむ陽気の中、先輩は真剣な眼差しで私に頭を下げた。

この数ヶ月で、もう何度目になるか分からない告白。

​私は胸の前でそそくさと手をつなぎ、いつものように申し訳なさそうな、けれど一切の迷いがない表情で頭を下げた。


​「……ごめんなさい。お気持ちはすごく嬉しいです。でも、私にはずっと忘れられない人がいるんです。だから、誰とも付き合えません」

​「……その『忘れられない人』って、噂の幼なじみのこと? でも、あいつには彼女がいるだろ? 橘さん、いつまで待つつもりなんだよ。俺が忘れさせるから」


​先輩の痛烈な言葉が、胸に突き刺さる。

それでも、私の口から出る言葉は変わらなかった。


​「……叶わなくてもいいんです。私の中の『一番』は、あの人しかいないから」


​先輩は諦めたように深く息を吐き、
「そっか……ごめんな」
と言って立ち去っていった。