『この子の手を取れば、あの夜の静寂から逃げられるんじゃないか?』
『誰かに「好きだ」と強く求められれば、胸の開いた穴が塞がるんじゃないか?』
俺は断れなかった。
寂しさに耐えかねて、自分から逃げるようにその子の手を取ってしまった。
────だが、何も埋まりはしなかった。
手をつないでも、一緒に放課後の街を歩いても、二人きりの部屋で抱きしめ合っても、胸の奥の冷たい穴は一ミリも埋まらなかった。
それどころか、隣で嬉しそうに微笑む女子の顔を見れば見るほど、髪の香りを聞けば聞くほど、
(これは瑠華じゃない。)
(瑠華の手はもっと小さくてあたたかかった。)
(瑠華の声はもっと高くて愛おしかった。)
という残酷な現実を、これでもかと突きつけられるだけだった。
相手の女の子には何も罪はないのに、俺は彼女の肩に顎を乗せながら、心の中でただひたすら
『瑠華、瑠華』
と彼女の名前を叫び続けていた。


