引っ越しの前夜。
段ボールが積み上げられ、すっかり殺風景になった私の部屋の窓を、コンコンと叩く音がした。
ベランダから忍び込んできた幸平の手には、彼がずっと宝物にしていた、星の形をした透明なガラスのキーホルダーが握られていた。
「これ…瑠華にあげる。俺の一番大事なやつ。」
幸平は床に座り込む私の前にしゃがみ込むと、小さく震える私の両手を、自分の手でぎゅっと包み込んだ。
子どもの手の、あたたかくて柔らかい温度。
「俺たち、遠く離れても絶対忘れないよね? 誕生日の日には、絶対電話するから。…大人になっても、俺の一番は絶対に瑠華だからね。絶対誰にも渡さないから。」
視界が涙で歪んで、幸平の顔がよく見えなかった。
だけど、握り返してきた手の強さだけで、幸平がどれほど必死なのかが伝わってきた。
「私も…っ。幸平以外、絶対好きにならない…! ずっと、ずっと待ってるから……っ!」
「約束だよ。絶対にまた会おうね、瑠華。」
二人で交わした、幼くても何よりも強い約束。
次の日の朝、引っ越しトラックの後ろについて走る自家用車の後部座席から、私は後ろを振り返った。
遠ざかる街並みの中、泣きじゃくりながらどこまでも走って車を追いかけてくる幸平の姿が見えた。
手が千切れるほど手を振り合い、やがて角を曲がって見えなくなった幸平の影。
握りしめた手の中に残る、星のキーホルダーの冷たい感触と、幸平の掌の温もり。
それが、私と幸平の時間が止まった、あの切ない夏の記憶だった。


