郵便局の灯りは静かに揺れていた。
依頼人の女の子が帰ったあと、
燈子は白い封筒を見つめていた。
十年前の自分から届いた手紙。
胸の奥が少しだけ騒ぐ。
「まだ読まないのか」
炭が言った。
カウンターの上で尻尾を揺らしている。
「……怖いから」
燈子は正直に答えた。
炭は鼻を鳴らした。
「知りたいくせに」
反論できなかった。
知りたい。
だけど怖い。
その両方だった。
佳がやさしく微笑む。
「読んでみますか」
燈子は小さくうなずいた。
指先で封を開く。
紙の擦れる音がした。
たったそれだけなのに、
胸が苦しくなる。
便箋は一枚だった。
幼い文字で、
少し歪んだ字。
燈子は息を止める。
そこに書かれていた最初の言葉は、
たった一行だった。
・・・・・・・・・・・
おかあさんへ
・・・・・・・・・・・・
その瞬間だった。
白い病室。
窓から差し込む光。
やわらかい手。
かすかな笑い声。
記憶の破片が胸をよぎる。
でも、
すぐに消えてしまった。
「今の……」
燈子は思わずつぶやく。
炭がこちらを見る。
「思い出しかけたな」
燈子は便箋を握った。
続きを読む。
・・・・・・・・・・・・
きょうは
いっしょにケーキをたべました
たのしかったです
またいっしょに
たべたいです
・・・・・・・・・・・・
幼い文字だった。
だけど、
その続きを読もうとした時だった。
カラン──
扉のベルが鳴った。
誰も入ってきていない。
炭の耳がぴくりと動く。
佳が静かに目を細めた。
「珍しいですね」
燈子は入口を見る。
ガラス越しの夜。
誰もいない。
なのに、
誰かの影が揺れた気がした。
ひとつ。
いや。
ふたつ。
その瞬間、
手の中の便箋が小さく震えた。
炭が低い声で言う。
「客じゃないな」
「じゃあ……何なの?」
炭は答えなかった。
ただ入口を見ている。
外の闇の中で、
影だけが静かに揺れていた。
つづく
依頼人の女の子が帰ったあと、
燈子は白い封筒を見つめていた。
十年前の自分から届いた手紙。
胸の奥が少しだけ騒ぐ。
「まだ読まないのか」
炭が言った。
カウンターの上で尻尾を揺らしている。
「……怖いから」
燈子は正直に答えた。
炭は鼻を鳴らした。
「知りたいくせに」
反論できなかった。
知りたい。
だけど怖い。
その両方だった。
佳がやさしく微笑む。
「読んでみますか」
燈子は小さくうなずいた。
指先で封を開く。
紙の擦れる音がした。
たったそれだけなのに、
胸が苦しくなる。
便箋は一枚だった。
幼い文字で、
少し歪んだ字。
燈子は息を止める。
そこに書かれていた最初の言葉は、
たった一行だった。
・・・・・・・・・・・
おかあさんへ
・・・・・・・・・・・・
その瞬間だった。
白い病室。
窓から差し込む光。
やわらかい手。
かすかな笑い声。
記憶の破片が胸をよぎる。
でも、
すぐに消えてしまった。
「今の……」
燈子は思わずつぶやく。
炭がこちらを見る。
「思い出しかけたな」
燈子は便箋を握った。
続きを読む。
・・・・・・・・・・・・
きょうは
いっしょにケーキをたべました
たのしかったです
またいっしょに
たべたいです
・・・・・・・・・・・・
幼い文字だった。
だけど、
その続きを読もうとした時だった。
カラン──
扉のベルが鳴った。
誰も入ってきていない。
炭の耳がぴくりと動く。
佳が静かに目を細めた。
「珍しいですね」
燈子は入口を見る。
ガラス越しの夜。
誰もいない。
なのに、
誰かの影が揺れた気がした。
ひとつ。
いや。
ふたつ。
その瞬間、
手の中の便箋が小さく震えた。
炭が低い声で言う。
「客じゃないな」
「じゃあ……何なの?」
炭は答えなかった。
ただ入口を見ている。
外の闇の中で、
影だけが静かに揺れていた。
つづく
