『もう、好きじゃないことにした』



数日後。

蓮から電話がかかってきた。


しばらく画面を見ていた。

出たい。

声が聞きたい。

よし――

これで最後にしよう。

そう決めて、電話に出た。

「もしもし?」

『……莉央?』

蓮の声が聞こえた瞬間、涙が出そうになる。

「うん」

『どうした?』

「……何でもない」

『何でもない声じゃないし、返事も来ないから心配してたんだけど』

「……蓮」

『ん?』

「私ね」



少しだけ息を吸う。




「もう、蓮のこと待たせたくないし、追いかけてほしくもないから。」


『……』

「だから……もういいよ」

蓮の声が止まった。

『……どういうこと?』

「私、蓮のそばにいないほうがいいと思う」

『なんで?』

「……私がいると、蓮が苦しくなるから」

『そんなことない』

「あるよ」

『莉央』


「だって……」



声が震える。




「蓮は優しいから」

『……』

「私がいなくなったら、蓮はもっと楽になれる」

『ならない』

「……」

『俺は、莉央がいなくなったほうが楽になるなんて、一回も思ったことない』

「でも……」

『誰かに何か言われた?』

何も答えなかった。


その沈黙だけで、
蓮には分かったしまったようで──。

『……美玲?』



「……ごめん」

『莉央、待って』

「もういいの」

『よくない』

「蓮」

『ちゃんと話そう』



「……話したら、もう離れられなくなる」

蓮の胸が締め付けられる。

『離れなくていい』

「……怖いの」

『うん』

「私…捨てられるのが怖い」

『捨てない』

「信じられない」

『……じゃあ、信じられるまで俺が証明する』

「……でも」

『莉央』

「……」

『俺、莉央が好きだよ』

涙が溢れる。

「……うん」

『だから、もう一度だけ会おう』

「……」

『会って話そう』

莉央は目を閉じた。

会いたい。

本当はずっと会いたかった。

でも――

「……ごめんね」

『莉央?』

「私、もう決めたの」

『何を?』

「……蓮から離れる」

『待って』

「今までありがとう」

『莉央、待って。お願いだから――』

「蓮と過ごした時間、幸せだったよ」

『……』

「大好きだった」

『……だった?』

莉央は唇を噛んだ。

「……うん」

『嘘だ』

「……」

『莉央、お願いだからそんな言い方しないで』

「……ごめん」

『俺は莉央のこと追いかけるし、莉央のこと待つって──。』
「その話も、もう…いいの」

遮るように私は話を続けた。

『……え?』

「もう、私のことは忘れて」

蓮は何も言えなかった。


(元気な声で、
蓮には心配かけないように言わないと…)

そして私は、
最後になるべく元気な声で言った。



「……ばいばい!」





『莉央――』

通話が切れた。

「……莉央?」

すぐにかけ直す。

出ない。

もう一度。

出ない。

何度かけても、繋がらなかった。

「莉央……」

蓮はスマホを握りしめたまま、その場に立ち尽くした。