『もう、好きじゃないことにした』



「久しぶり、引越ししたんだって?遠いところからごめんね」

「……いえ、全然…」

以前美玲さんと訪れたカフェで集合した。
向かいに座った美玲さんは、以前と変わらない顔をしていた。

「最近、蓮とはどう?」

「……連絡は、取ってます」

「そう」

美玲さんは小さく笑った。

「優しいよね、蓮」

莉央は黙っていた。

「でも、蓮って昔からそうなの」

「……」

「自分が大切だと思った人ほど、自分から離れていく」

膝の上でぎゅっと手に力が入る。

「私のときもそうだった」

「……それは」

「蓮は私を嫌いになったわけじゃなかった。でも、私にはそう見えなかった」

美玲さんはスマホをテーブルの上に置いた。

「これ、覚えてる?」

画面には、昔の蓮とのやり取り。

…見たくなかった。

それでも、目を逸らせなかった。

『もう好きじゃない』

『他に気になる人がいる』

『俺のことは忘れて』

胸が苦しくなる。

「……蓮は、本当に美玲さんのことが好きだったんですね」

「うん」

美玲さんは迷いなく答えた。

「お互い本当に好きだったよ」

その言葉が、胸に刺さる。

「じゃあ……どうして」

「分からない」

美玲さんは少しだけ笑った。

「だから怖いんだよね」

「……」

「蓮がまた何かを抱えたら、今度は莉央ちゃんにも同じことをするかもしれない」

「そんなこと……」

「しないって言い切れる?」

答えられなかった。

美玲さんが続ける。

「蓮は優しいから、莉央ちゃんが傷つくくらいなら、自分が悪者になってでも離れると思うよ」

「……」

「だって、実際に私にしたんだから」

その言葉で、私の心にあった小さな不安が、一気に膨らんだ。

――また捨てられるかもしれない。

――また突然、「好きじゃない」と言われるかもしれない。

――そのとき、私は耐えられるのかな。

「……私」

莉央は俯いた。

「蓮のそばにいないほうが、いいのかもしれません」

美玲さんは何も言わなかった。


ただ、静かに笑っていた──。