『もう、好きじゃないことにした』

***


四週間目。

俺は限界に近づいていた。

仕事にも集中できない。

食欲もない。

夜になると莉央のことばかり考える。

その日の仕事終わり。

『湊、今日飲みに行かないか?』

珍しく俺から誘った。
二つ返事で湊から返事が来た。





「……珍しいな。お前から誘うなんて、て言うかお前痩せたんじゃねーの?体調大丈夫かよ?」

「別にそんなことねーし、たまにはいいだろ」

そう言って向かったのは、
俺たちが昔からよく行く、いつもの居酒屋だった。


普段なら酒を飲むペースだって考える。

けれど今日は違った。

一杯、二杯と、いつもより明らかに早く酒が進む。

料理が運ばれてきても、ほとんど箸をつけないくせに、
酒だけは次々と飲んでいく。

「おい、ちょっと飲みすぎじゃね?」

「平気」

「いや、平気なやつはそんな飲み方しないって」

「……別に酔ってない」

そう言って笑った。

「その笑い方、いつもと違うぞ」

湊に指摘された。

確かに、頬は少し赤くなっていて、
目もどこかぼんやりするような。

そして何より。

さっきから何度もスマホを手に取っては、
同じ画面を眺めている。

湊に言われた。

「…もう一ヶ月だぞ」

「……うん」

「そろそろ会いに行ってもいいんじゃない?」

蓮は首を横に振った。

「ダメ」

「なんでそこまで意地張ってんの?」

「意地を張ってるんじゃなくて、俺が『待つ』って言ったから」

「でも、お前だって辛いだろ」

「辛いよ」

蓮は即答した。

「めちゃくちゃ辛い」

少し俯いて。

「でも、莉央はもっと怖いんだと思う」

「……」

「だから俺が無理やり引っ張ったら、また逃げる」

湊は何も言わなかった。


俺はグラスを傾けながら、ふっと笑った。

「……俺、弱いから」

普段なら、絶対に口にしない言葉だった。

けれど、今日は酒が入っているせいか。
胸の奥に押し込めていたものが、少しずつ緩んでいく。

「また莉央に逃げられるの、嫌なんだよ」

「……」

「本当は、行くなって言いたいし」

グラスをテーブルに置く。

「俺のこと好きなら、そばにいてって言いたい」

自分で口にして、苦笑した。

「……でも、そんなこと言ったら、莉央また困るだろ」

莉央が困った顔をするのが嫌だった。

自分のせいで、また莉央が苦しくなるのも嫌だった。

だからずっと、言えなかった。

「俺だって……離れたくないのに」

ぽつりとこぼれた声は、いつもの俺からは想像できないほど弱かった。

「会いたいし」

「声も聞きたいし」

「顔見たら、たぶん……帰したくなくなる」

酔っているからなのか、
それとも、もう隠していられなかっただけなのか。

自分でも分からない。

ただ、今だけは。

格好悪くてもいい。
余裕がなくてもいい。

「……本当は、今すぐ会いに行きたい」

そう呟いて、スマホを手に取る。

何度も迷った末に、そのまま莉央へ送った。

『本当は今すぐ会いに行きたい』

送信した瞬間、

蓮は深く息を吐いた。

「…はぁ…だいぶ酔ってるな、これ」

そう言いながらも、
送信を取り消す気にはなれなかった。

酔いが覚めても、
きっと同じことを思っている気がした。



蓮side end