『もう、好きじゃないことにした』


仕事が終わる頃、スマホに蓮からメッセージが届いた。

『終わった?』

『うん、今終わったよ』

『じゃあ、外で待ってる』

外に出ると雨の中、蓮が立っていた。

「蓮!」

「お疲れ」

「お疲れさま」

蓮が傘を開いて、私の方へ少し傾ける。

そのせいで、蓮の肩が少し濡れていた。

「……蓮、肩濡れてるよ」

「ん?」

「傘、こっちに傾けすぎ」

「いいよ、これくらい」

「よくない! ほら、ちゃんと蓮も入って!」

そう言うと、蓮は自分のことなんて気にする様子もなく、私に笑いかけた。


「じゃ、行こ」

「どこに?」

「着いてからのお楽しみ」

そう言って、蓮は歩き出した。

並んで歩きながら、ふと初めて会った日のことを思い出す。

あの日も、雨が降っていた。

私が傘を忘れて、屋根のあるベンチで雨宿りしていたとき。

蓮が声をかけてくれた。

そして、あの日も――

蓮は私の方へ傘を傾けて、
自分の肩を濡らしていた。

「……そういえばさ」

「ん?」

「最初の頃って、二人でいろんなところ行って遊んでたよね」

「そうだな」

「カフェ行ったり、買い物したり」

「うん」

「私が誘ったら、普通に二人で行ってくれてたのに」

そこまで言って、少しだけ寂しくなる。

「私が蓮に告白してからは、二人で遊ぼって誘っても、絶対ほかの友達も誘うようになったよね」

蓮が少し黙った。

「……そうだったな」

「なんで?」

「……」

「私、何かした?」

「違うよ」

蓮は少し困ったように笑った。

「莉央が俺のこと好きって知ってから、二人でいるのはよくないかなって思っただけ」

「……そっか」

「でも」

蓮が前を向いたまま、ぽつりと言った。

「あれは、今思うとよくなかったな」

「え?」

「莉央が何も悪くないのに、距離置いてるみたいになってたし」

少しだけ苦笑して、

「だから、もう忘れて」

「……ふふ」

「ほんとに。俺も反省してるから」

「分かった」

そう答えながら、私は少しだけ笑った。

あの頃は、それが寂しくて悲しかった。

でも今思えば、
蓮なりに私との距離を考えてくれていたのかもしれない。

雨音を聞きながら、隣を歩く蓮を見る。

昔と同じように、
私の方へ傘を傾けている。

そして、ふと気づいた。

今も、蓮の肩が少し濡れている。

昔と同じだ。

けれど――

やっぱり、今日の蓮は少し変だ。

「……蓮」

「ん?」

「今日、なんか変だよ」

「そう?」

「うん。朝からずっと」

蓮が少しだけ黙る。

「私、何かした?」

「違うよ」

「じゃあ、なんで?」

蓮は困ったように笑った。

「ごめん」

「え?」

「ちょっと緊張してるだけ」

「緊張?」

「うん」

「何に?」

「それは……まだ秘密」

そう言って笑う蓮を見て、莉央はますます不思議に思った。