『もう、好きじゃないことにした』



「……じゃあ、お言葉に甘えてもいいですか?」

「もちろん」

彼が傘を開く。

私は少しだけ距離を空けながら、その隣に入った。

「ありがとうございます」

「うん」

歩き始める。

しばらくして、ふと隣を見ると、彼の肩が少し濡れていることに気づいた。

「……あの、、そっち濡れてません?」

「大丈夫」

「でも、傘こっちに寄ってますよ」

「気にしなくていいって」

そう言って笑う。

――優しい人なのかもしれない。

少なくとも、私が聞いていた噂だけでは分からない人だった。

「名前、なんていうの?」

「桜井莉央です」

「莉央ちゃん?」

「はい」

「俺、神谷蓮」

「……神谷さん」

「いや、蓮でいいよ」

「え?」

「神谷さんって、なんか距離あるじゃん」

「でも……」

「蓮って呼んで」

「……蓮…くん」

「うん」

初対面なのに、距離の詰め方が早い。

――やっぱり、ちょっとチャラい。

そう思った。

でも、不思議と嫌な感じはしなかった。