『もう、好きじゃないことにした』



少し屈むようにして、私の顔を覗き込んでいる。

雨に濡れた髪が、額にかかっていた。

その隙間から覗く瞳は、吸い込まれそうなくらい澄んでいて。

すっと通った鼻筋。

薄く形の整った唇。

長い睫毛が落とす影まで、まるで作り物みたいに綺麗だった。

――本当に、かっこいい。

噂で聞いていた通りだった。

いや。

実際に見ると、それ以上かもしれない。

思わず見惚れていると、彼が不思議そうに首を傾げた。

「……どうした?」

低くて、柔らかな声。

「あ……」

慌てて目を逸らす。

「……なんでも、ないです」

顔が熱い。

雨に濡れているせいじゃない。

でも。

思っていたより、怖くない。

むしろ、話しやすそうな人だった。

「傘、忘れちゃって」

「そっか」

彼はそう言って、手に持っている傘を見る。

「じゃあ、入る?」

「え?」

「俺の傘」

「でも、悪いですよ」

「駅までなら一緒でしょ」

あまりにも自然に言うから、少し驚いた。