十二月に入って、街の空気はすっかり冬になった。
放課後、校門を出た瞬間に白い息がこぼれて、ひまりはマフラーに顔をうずめる。
「さむい……」
そうつぶやいた途端、隣からあたたかい手が伸びてきた。
蓮が何も言わずに、ひまりの手を包みこむ。
「行くぞ」
「うん」
今日は、前から約束していたイルミネーションを見に行く日だった。
駅前は人でにぎわっていて、あちこちに冬の光があふれている。
木々に巻かれた電飾は、青や金にきらめいて、まるで街全体が魔法にかかったみたいだった。
「きれい……」
ひまりが目を輝かせると、蓮はその横顔を見て少しだけ笑う。
「うれしそう」
「だってほんとにすごいもん」
「ならよかった」
「蓮は見たことあったの?」
「ない」
「え」
「おまえと来たかったから、初めてにした」
その一言に、ひまりの頬が一気に熱くなる。
イルミネーションより、その言葉のほうがずっとまぶしい。
人混みの中を歩きながらも、蓮はずっとひまりの手を離さなかった。
むしろ普段より強く握っている気がする。
「蓮、ちょっと強い」
「はぐれる」
「そんなに簡単にはぐれないよ」
「俺がいや」
真顔で返されて、ひまりは思わず笑ってしまう。
「また重い」
「知ってる」
でもその声は、どこか楽しそうだった。
少し歩いた先に、大きなツリーが見えてくる。
何色もの光をまとったその姿に、周りからも歓声が上がっていた。
ひまりは思わず足を止める。
「すごい……!」
その瞬間、近くにいた知らない人がひまりにぶつかりそうになる。
けれどすぐに蓮の腕が引き寄せて、ひまりはその胸に守られるように包まれた。
「危ない」
「ご、ごめん」
「謝らなくていい」
低い声がすぐ近くで響く。
顔を上げると、蓮の目がまっすぐひまりを見ていた。
イルミネーションの光を映したその瞳が、ひどくきれいで、ひまりの鼓動が速くなる。
「今日、ずっと思ってた」
「え」
「連れてきてよかった」
ひまりは小さく瞬く。
蓮は少しだけ視線を落として、それからまた口を開いた。
「おまえ、こういうの好きそうだし」
「うん、好き」
「知ってる」
「なんで?」
「顔に出てる」
そんなふうに言われて、ひまりは照れくさくなる。
けれどそのとき、近くを歩いていた女の子たちの声がふと耳に入った。
「あの人かっこよくない?」
「やば、彼氏かな」
明らかに蓮を見ている。
ひまりが気づくより先に、蓮は小さく舌打ちした。
「れん?」
「見すぎ」
「え」
「さっきからうるさい」
どうやら聞こえていたらしい。
ひまりは困ってしまう。
「でも、しょうがないよ。蓮かっこいいし」
その瞬間、蓮の動きが止まった。
「……今なんて言った」
「え」
自分で言ってから、ひまりははっとする。
顔が熱くなる。
「ち、ちがう、今のは」
「ちがわないだろ」
蓮の声が少し低くなる。
「もう一回」
「無理」
「俺だけに言って」
そんなこと言われたら、余計に無理だ。
ひまりが目をそらすと、蓮はその顔をのぞきこむように距離を詰めてくる。
イルミネーションの光に囲まれて、周りにはたくさん人がいるのに、今だけそこだけ空気が違うみたいだった。
「ひまり」
名前を呼ばれるだけで逃げたくなるほど恥ずかしい。
でも逃げたくない。
「……かっこいいって、思っただけ」
小さな声で言うと、蓮の目が細められる。
その顔があまりにも甘くて、ひまりはまた胸をつかまれる。
「だめだ」
「何が」
「好きが増える」
そんなことを言いながら、蓮はひまりの耳にかかった髪をそっと払う。
冷えた頬に、その指先だけが熱い。
「人多いけど」
「うん」
「少しだけ、こっち」
蓮に手を引かれて、人通りの少ない並木道の端へ移動する。
そこはツリーの裏側で、光はきれいに見えるのに、人目は少しだけ遠かった。
冬の冷たい風が吹く。
けれど蓮の前に立つと、不思議と寒くなかった。
「キスしたい」
ストレートすぎる言葉に、ひまりの心臓が大きく跳ねる。
「い、いま?」
「だめ?」
ひまりは少しだけ周りを見る。
誰も近くにはいない。
でも完全に二人きりでもない。
そのどきどきが、逆に胸を熱くする。
「……少しだけ」
そう答えると、蓮はほんの少しだけ笑った。
「少しじゃ無理かも」
「れん」
名前を呼んだ瞬間、蓮の手がひまりの頬を包む。
そして次の瞬間、そっと唇が重なった。
冬の空気の中で触れるそのぬくもりに、ひまりは思わず目を閉じる。
やさしい。
でもそれだけじゃない。
好きがあふれてしまったみたいな、甘くて深いキスだった。
一度離れても、蓮はすぐには距離を取らない。
額を寄せたまま、少し苦しそうに息をつく。
「可愛すぎる」
「もう、そればっかり」
「ほんとだから」
ひまりが照れて視線を落とすと、蓮はそのままもう一度、今度は短く唇を重ねた。
さっきよりも軽いのに、胸にはもっと強く残る。
「これ以上はだめ」
蓮が自分に言い聞かせるみたいに低く言う。
「止まれなくなる」
その正直すぎるひと言に、ひまりの顔は真っ赤になる。
けれど蓮はそんなひまりの手をまたぎゅっと握って、どこか満足そうに笑った。
「帰る前に、もう少し歩こう」
「うん」
「今日はちゃんと、俺の隣で」
「最初からそうだよ」
「足りない」
やっぱり重い。
でもその重さが、今はひまりには心地よかった。
光に照らされた帰り道を、二人でゆっくり歩いていく。
つないだ手はあたたかくて、離れる気がしなかった。
冬の夜は寒いはずなのに、今日は胸の奥まであたたかい。
きっとこの景色を思い出すたびに、ひまりは一緒に思い出す。
イルミネーションよりまぶしいくらい、まっすぐに自分を見つめる蓮のことを。
放課後、校門を出た瞬間に白い息がこぼれて、ひまりはマフラーに顔をうずめる。
「さむい……」
そうつぶやいた途端、隣からあたたかい手が伸びてきた。
蓮が何も言わずに、ひまりの手を包みこむ。
「行くぞ」
「うん」
今日は、前から約束していたイルミネーションを見に行く日だった。
駅前は人でにぎわっていて、あちこちに冬の光があふれている。
木々に巻かれた電飾は、青や金にきらめいて、まるで街全体が魔法にかかったみたいだった。
「きれい……」
ひまりが目を輝かせると、蓮はその横顔を見て少しだけ笑う。
「うれしそう」
「だってほんとにすごいもん」
「ならよかった」
「蓮は見たことあったの?」
「ない」
「え」
「おまえと来たかったから、初めてにした」
その一言に、ひまりの頬が一気に熱くなる。
イルミネーションより、その言葉のほうがずっとまぶしい。
人混みの中を歩きながらも、蓮はずっとひまりの手を離さなかった。
むしろ普段より強く握っている気がする。
「蓮、ちょっと強い」
「はぐれる」
「そんなに簡単にはぐれないよ」
「俺がいや」
真顔で返されて、ひまりは思わず笑ってしまう。
「また重い」
「知ってる」
でもその声は、どこか楽しそうだった。
少し歩いた先に、大きなツリーが見えてくる。
何色もの光をまとったその姿に、周りからも歓声が上がっていた。
ひまりは思わず足を止める。
「すごい……!」
その瞬間、近くにいた知らない人がひまりにぶつかりそうになる。
けれどすぐに蓮の腕が引き寄せて、ひまりはその胸に守られるように包まれた。
「危ない」
「ご、ごめん」
「謝らなくていい」
低い声がすぐ近くで響く。
顔を上げると、蓮の目がまっすぐひまりを見ていた。
イルミネーションの光を映したその瞳が、ひどくきれいで、ひまりの鼓動が速くなる。
「今日、ずっと思ってた」
「え」
「連れてきてよかった」
ひまりは小さく瞬く。
蓮は少しだけ視線を落として、それからまた口を開いた。
「おまえ、こういうの好きそうだし」
「うん、好き」
「知ってる」
「なんで?」
「顔に出てる」
そんなふうに言われて、ひまりは照れくさくなる。
けれどそのとき、近くを歩いていた女の子たちの声がふと耳に入った。
「あの人かっこよくない?」
「やば、彼氏かな」
明らかに蓮を見ている。
ひまりが気づくより先に、蓮は小さく舌打ちした。
「れん?」
「見すぎ」
「え」
「さっきからうるさい」
どうやら聞こえていたらしい。
ひまりは困ってしまう。
「でも、しょうがないよ。蓮かっこいいし」
その瞬間、蓮の動きが止まった。
「……今なんて言った」
「え」
自分で言ってから、ひまりははっとする。
顔が熱くなる。
「ち、ちがう、今のは」
「ちがわないだろ」
蓮の声が少し低くなる。
「もう一回」
「無理」
「俺だけに言って」
そんなこと言われたら、余計に無理だ。
ひまりが目をそらすと、蓮はその顔をのぞきこむように距離を詰めてくる。
イルミネーションの光に囲まれて、周りにはたくさん人がいるのに、今だけそこだけ空気が違うみたいだった。
「ひまり」
名前を呼ばれるだけで逃げたくなるほど恥ずかしい。
でも逃げたくない。
「……かっこいいって、思っただけ」
小さな声で言うと、蓮の目が細められる。
その顔があまりにも甘くて、ひまりはまた胸をつかまれる。
「だめだ」
「何が」
「好きが増える」
そんなことを言いながら、蓮はひまりの耳にかかった髪をそっと払う。
冷えた頬に、その指先だけが熱い。
「人多いけど」
「うん」
「少しだけ、こっち」
蓮に手を引かれて、人通りの少ない並木道の端へ移動する。
そこはツリーの裏側で、光はきれいに見えるのに、人目は少しだけ遠かった。
冬の冷たい風が吹く。
けれど蓮の前に立つと、不思議と寒くなかった。
「キスしたい」
ストレートすぎる言葉に、ひまりの心臓が大きく跳ねる。
「い、いま?」
「だめ?」
ひまりは少しだけ周りを見る。
誰も近くにはいない。
でも完全に二人きりでもない。
そのどきどきが、逆に胸を熱くする。
「……少しだけ」
そう答えると、蓮はほんの少しだけ笑った。
「少しじゃ無理かも」
「れん」
名前を呼んだ瞬間、蓮の手がひまりの頬を包む。
そして次の瞬間、そっと唇が重なった。
冬の空気の中で触れるそのぬくもりに、ひまりは思わず目を閉じる。
やさしい。
でもそれだけじゃない。
好きがあふれてしまったみたいな、甘くて深いキスだった。
一度離れても、蓮はすぐには距離を取らない。
額を寄せたまま、少し苦しそうに息をつく。
「可愛すぎる」
「もう、そればっかり」
「ほんとだから」
ひまりが照れて視線を落とすと、蓮はそのままもう一度、今度は短く唇を重ねた。
さっきよりも軽いのに、胸にはもっと強く残る。
「これ以上はだめ」
蓮が自分に言い聞かせるみたいに低く言う。
「止まれなくなる」
その正直すぎるひと言に、ひまりの顔は真っ赤になる。
けれど蓮はそんなひまりの手をまたぎゅっと握って、どこか満足そうに笑った。
「帰る前に、もう少し歩こう」
「うん」
「今日はちゃんと、俺の隣で」
「最初からそうだよ」
「足りない」
やっぱり重い。
でもその重さが、今はひまりには心地よかった。
光に照らされた帰り道を、二人でゆっくり歩いていく。
つないだ手はあたたかくて、離れる気がしなかった。
冬の夜は寒いはずなのに、今日は胸の奥まであたたかい。
きっとこの景色を思い出すたびに、ひまりは一緒に思い出す。
イルミネーションよりまぶしいくらい、まっすぐに自分を見つめる蓮のことを。



