特別支援学校の窓から

 昨年からの持ち上がりで、私は中学部2年になった子どもたちと一緒に「進級」した。5人の教員も受け持ちの生徒も、みな昨年からの持ち上がりとなった。
 私以外の4人は、いわゆる「熱心な先生」で、何かあると、職員室にいる「外部専門家」の先生に、受け持ち生徒の姿勢のことや口腔ケアのことなどを相談に行き、ああでもない、こうでもないと話し合っている。私は、4人とは正反対の怠け者。子どもを「いじくり回す」のは好きではない。子どもの「おかしい」ところを鵜の目鷹の目で見つけて、躍起になってそれを矯正するのは、どうも性に合わないのだ。
 近年、特に肢体不自由特別支援学校では、理学療法士、作業療法士、心理専門職、摂食指導専門職などの外部専門家が定期的に学校を訪れ、全生徒について定期的に授業時間を使って「アセスメント」を行い、より「望ましい」指導・対応の仕方について助言を仰ぐ、という体制が出来上がっている。外部専門家が教室を回って子どもたちの様子を観察することもあれば、教員の方から相談を持ち掛けることもできる。
 昨年からこの外部専門家に一番「お世話になっている」のは、徐々に筋力が衰えていく障害のあるタエコだ。小学部時代から「早食い」傾向がある、と言われてきたタエコの給食は、障害者用の食器にほんの少しずつ入れて、それがなくなると「○○をください」と隣の教員に食べたいものを言って取り分けてもらう、という形式で食べていた。
 自分の食べる分の給食なのだから、いちいち「ください」と言わせるのも抵抗感があり、自分がタエコの給食見守りに当たるたびに、モヤモヤを感じていた。
 タエコの担当の長尾先生からは「タエコはご飯はパンばかり食べたがるから、野菜から食べるようにさせてください」等々注文がつく。適当に聞き流しつつ、それでも三回に一回は「野菜も食べなよ」と言いながらの「摂食指導」だ。
 ある日、長尾先生の授業が長引き、給食時間にかかったことがあった。私は一計を案じて、他の生徒や教員と同じように盛られた給食を、障害者用の皿を使わず、そのままタエコの前に出した。本当に「早食い」で「噛まない、まるのみ」するのか、普通の皿で食べることができるかどうか、自分の目で確かめたいと思った。私は、タエコにほとんど声をかけずに見守った。タエコは、10分あまりで給食を食べ終えた。私は、決して早食いではないと思った。
 給食を片付けながら、私は4人に、タエコは普通皿で、特別なことをしなくても大丈夫だと思う、と話した。完全に無視された。同じことを二回言う勇気はなかった。
 2年になって、長尾先生はタエコの給食のときの姿勢が気になると言い始めた。早速外部専門家のお出ましだ。タエコを何度も座らせては机と椅子の高さを細かく調整し、足台に両足をのせて姿勢を安定させ、食べるときは身体を軽く前に出すように注意するようアドバイスされた。
 タエコは2年になってから、障害者用の皿にご飯とおかずを二口ずつぐらい載せてもらえるようになった。教員から「タエちゃん、お顔前に出して食べてね」と注意されながら。
 少しぐらいこぼしたって、少しぐらい姿勢が「ヘン」だって、本人がつつがなく、美味しく給食を食べているのだったらいいじゃない、なんて、口が裂けても言えない。タエコの摂食指導に対する長尾先生はじめ4人の先生方の、あまりの熱心さを目の当たりにすると。そのとばっちりが、私の担当しているトミエにまで及ばないよう、心ひそかに祈っている。
 長尾先生たちは正しいのかもしれないが、はっきり言わせてもらおう。タエコと食べる給食は、ちっとも美味しくない、と。