特別支援学校の窓から

昨年から、私の勤める学校にも「学校介護職員」が導入された。学校介護職員とは、児童生徒の学校生活における「介護」の仕事(移動介助、食事介助、排泄介助、学習補助など)を行なう非常勤職員。都教委の意図は、児童生徒の「指導」は教員、「介助」は介護職員、という職務分担で、それぞれの「専門性」を生かしていく、というものだ。
私の学年に配属された介護職員の方は、ちゃきちゃきの江戸っ子。もたもたしていると、教員だろうが生徒だろうが手厳しい声が飛ぶ。ある日、給食に揚げパンが出た。甘いもの好きのマイは、パンにまぶした黄粉をぼろぼろこぼしながら、おいしそうに頬張っていた。お気に入りのブラウスも車椅子も黄粉まみれにしながら。おいしそうに食べ終わったマイは、私の揚げパンを欲しそうにじいっと見つめていた。「あかん、やるかいな、ボケ~」と冗談交じりに答えたら「先生!ボケってひどいですよ。マイちゃん女の子じゃないですか」
 給食が終わってマイのブラウスについた黄粉をウエットティッシュで拭き始めると「先生、濡れたもので拭いたらかえってしみになります」マイに立ってもらって、車椅子についた黄粉をはたいたら「先生、そんなところではたかれると、マイちゃんが移動する時に広がっちゃいます」仕方なくほうきとちりとりを出しはじめると「先生、ヤスくんまだ食べ終わってないのでやめてください」ホンマかなんな~、と思うこともあるが、今のところ、私の周囲では大きなトラブルは起こっていない。
 分掌の飲み会で、他学部の若い教員が同じクラスの介護職員とうまく行っていない、とぼやいていた。彼女は今年4月に転勤してきてその学年に入り、介護職員は去年からの持ち上がり。彼女は、自分の担当する生徒について、排泄の際の座椅子便器の座らせ方、プロンキーパー(姿勢保持用具)での姿勢のとらせ方など、今までと違うやり方をするように介護職員に言った。介護職員は、教員の指示に従い介護をするのが基本で、そのための「指示書」が整えられている。彼女は自分が担当する生徒を見て、やり方を変えたほうがいいと判断し、それを指示書に盛り込んで介護職員に伝えたのだ。
 介護職員の立場からすれば、昨年度からなじんできたやり方、生徒との信頼関係を築いてきたやり方を新しく来た人からいきなり「変えろ」と言われたわけだから、戸惑い反発するのが当然だろう。
 介護職員は、「やっぱり○ちゃんには前のやり方の方があってるよね~、私と一緒だと、こんなに緊張がとれてゆるゆるできるもんね~。先生、何にもわかってないから、○ちゃん大変よね~」などと、生徒の介助をしながら聞こえよがしに言うようになった。
 彼女もしばらくは我慢していたようだが、ある日、ついに堪忍袋の緒が切れて、「生徒の前で、そういうことを言うのはやめてください!」と言ったそうだ。
 教員の中には、彼女のように介護職員に生徒への接し方を「指示」して、その通りに行なわせることが仕事だと額面どおり受け止めている人が相当いるようだ。たしかに都教委の趣旨はそのとおり。しかし、「指導」と「介護」は簡単に線引きできるものではないし、してはならないものではないだろうか。
 前述のマイについては、私より江戸っ子職員さんの方が付き合いも、一緒にいる時間もはるかに長い。歯磨きからトイレの介助の仕方など、私は全面的に彼女の指示を仰いでいるのが現状だ。
 山に登るのに、登山ルートは1つだけではない。そのことを教員も介護職員も共通認識し、互いの存在をリスペクトし合えればよりよい関係を切り結べると思うが、一筋縄ではいかないのが現状である。