特別支援学校の窓から

 2学期も大詰めの職員連絡会(かつて「職員会議」と呼ばれていたもの)で、校長が冒頭一番に放った言葉で、会議室はにわかにざわついた。
 「来学期から、児童生徒の名前は、名字にくん、さん付けで呼ぶようにしてください。先生方の接し方を見ていると、児童生徒を「ちゃん」付けや愛称・あだ名で呼んでいることが多い。人権上問題が多く、またそれを嫌だと思っているという子どももいる。名字できちんと、子どもを尊重する呼び方をするように、3学期からは心がけてほしい」
 小学部の主任のひとりが「道徳授業の中に、自分の名前の由来を知る、という取り組みがある。名前で呼ぶのはおかしなことではないと思う」と反論すると校長は「小学部低学年生については、家庭で呼ばれている名前で呼ぶ、という配慮が必要かもしれないが、他の児童生徒については、名字にくん、さん付けで呼ぶようにしてほしい」
 実は、この話のあった数日前、私の所属学年の主任が、クラスの児童を「マーちゃん」「ユウちゃん」と、ちゃん付け全開で呼んでいたのが、「マサヨさん」「ユウキくん」と呼ぶ場面がちらほら出てきていたので、?と思っていたところだった。
 私の所属は小学部5年。私以外の教員はみな「ちゃん付け」で子どもを呼んでいる。転勤してきたばかりの頃、自分が小学校の頃に担任に「ちゃん付け」で呼ばれたことなど一度もなかったし、「健常」の子どもにしないことを「障害」があるということでする、ということに引っ掛かりを感じて、子どもの呼び方を名前に「くん・さん」付けで呼ぶことを基本にしていた。本当は「鈴木さん」「佐藤くん(佐藤さん)」と呼ぼうかと思ったが、周囲の教員のうち、名字で子どもを呼ぶ人が誰もいなかったので、あまり「異彩を放つ」のもどうかと思い、「マサヨさん」「ユウキくん」「ダイチくん」と呼んできた。
 3学期はじめの職員連絡会で、校長は再度、児童生徒の呼び方について「名字にくん、さん付けで」と念押ししてきた。
 周囲の様子を見ていると、主任は「マーちゃん」「マサちゃん」「マサヨさん」と言った具合、他の教員は今まで通り「ユウちゃん」「ダイちゃん」式だ。「鈴木さん」「佐藤くん」は、何分にもまだまだハードルが高いようだ。
 名前の呼び方、というのは相手との関係性と不可分であり、相手を「障害があり、何もできない・わからない」存在だと位置付ければ、自然に幼児に呼びかけるように「ちゃん付け」になっていく。
 その証拠に、教科学習をしているグループの子どもは、男子は名字+くん、女子は名字+さんと名前+ちゃんの併用が多く、「重度」になると男子は「くん付け」「ちゃん付け」併用で女子は「ちゃん付け」になる。障害の軽重と性差で、明らかに呼び方が違っている。
 校長のように職権を振りかざし、上から名前の呼び方を強制しても、この関係性が固定している限り、一朝一夕には改まることはないだろうと私は踏んでいる。
 今までも「精神薄弱→知的障害」「養護訓練→自立活動」「養護学校→特別支援学校」等、上からのお達しで呼び名が変わり、違和感をもちながら、なし崩しに新しい呼び方に馴染まされていった。今までの呼び方にどういう問題があって、どうして名称を変えるのか、という議論を学校の中でした覚えは全くない。呼び方だけ変わっても、中身は大同小異だ。
 3学期はじめての授業で「書き初め」を行った。主任は児童作品に「鈴木」「佐藤」と記した。今までなら「まさよ」「ゆうき」だった。校長の言葉がよみがえり、「だいち」と記名した私の担当児童の作品に、あわてて「やまもと」と加えた。文字がゆがんだ。自分が情けなかった。