昨秋の「障害」児教育研究集会で、特別支援学校教員の報告者が、「特別支援学校の先生は、「やさしい」「よく話を聞いてくれる」とよく言われるが、それはいわば営業用であり、まやかしである」という内容の話をしていました。現場にいると、特別支援学校の先生方の「やさしい」「熱心だ」と言われる部分の中身について、感じるところがいろいろあります。
「子どもをよく見る」ことが身上の教員が、意識してか、それとも無意識のうちにか、生徒の様子や変化を「見なかったことにする」瞬間があります。以前私が経験した重度重複学級の、キヨシくんという「重度」の自閉症の生徒のことをお話させていただきたいと思います。
キヨシくんは「興味・関心の幅が狭く、それを広げていくことが課題」と言われていた生徒でした。キヨシくんは休み時間になるともっぱら、好きな音楽のカセットテープをかけて過ごしていました。彼のお気に入りはブルーハーツの「トレイントレイン」。アップテンポの曲が好きで、「トレイントレイン」を中心に、同じ曲をテープが擦り切れるぐらい、何度も何度も繰り返し聞きながらうっとりとした表情になり、興に乗るとその場でくるくる回り始めます。「トレイントレイン」のテープの予備は、キヨシくんの担当教員が自宅でダビングしてきていました。
キヨシくんの隣のクラスに、チエさんという生徒がいました。彼女も音楽を聴くのが大好きでしたが、キヨシくんとは好みが違い、演歌がお気に入りでした。その頃、彼女は天童よしみの「珍道物語」にはまり、休み時間になるたびに繰り返し聴いていました。
ある日、いつものように「珍道物語」が流れてきました。チエさんのクラスではなく、重度重複学級の教室からでした。チエさんが遊びにきているのかな?と思って教室をのぞくと、彼女の姿はなく、キヨシくん一人だけでした。「珍道物語」を聴きながら、キヨシくんはうっとりとした表情を浮かべ、くるくる回っていました。驚きました。アップテンポの曲にしか興味がない、と思っていたので、本当に驚きました。
その後キヨシくんの様子を見ていると、一人でチエさんのクラスに入り、「珍道物語」のテープを持って自分のクラスに戻り、デッキにかけて聴いていました。曲が終わると、私の手を引いて「巻き戻して」と求めてきました。他の生徒の聞いている曲が気に入って、自分の力でそれを手に入れる。今までほとんど見たことのない姿で、私は本当にうれしく思いました。
しかし、キヨシくんの担当の教員は、そんなキヨシくんを見て、もう一人の担任にこう言ったのです。
「お父さん、地域のオーケストラに入ってるし、演歌のテープを聴いてるなんて、連絡帳に書けないよね」
彼らは、卒業生の保護者が立ち上げたボランティア団体に積極的に関わるなど、職場内でも保護者の間でも「熱心な先生」という評判でした。しかし、彼らの言う「興味・関心の広がり」の中身はとどのつまり、彼らの価値観の範囲内に限定されたものだったのです。
生徒たちを見ていると、「自分が好きかどうか」を中心に据えて、物事を選んでいるように思います。それが、身近な大人の価値観とは違う方向に向かうことがあります。それを「障害があるから何もわからない」と切り捨てるのか、その生徒の持ち味だと共感するのか。
キヨシくんの「珍道物語」が、今もきっと、どこかで誰かと新しい「物語」を生み出していることを、折に触れて想うこのごろです。
「子どもをよく見る」ことが身上の教員が、意識してか、それとも無意識のうちにか、生徒の様子や変化を「見なかったことにする」瞬間があります。以前私が経験した重度重複学級の、キヨシくんという「重度」の自閉症の生徒のことをお話させていただきたいと思います。
キヨシくんは「興味・関心の幅が狭く、それを広げていくことが課題」と言われていた生徒でした。キヨシくんは休み時間になるともっぱら、好きな音楽のカセットテープをかけて過ごしていました。彼のお気に入りはブルーハーツの「トレイントレイン」。アップテンポの曲が好きで、「トレイントレイン」を中心に、同じ曲をテープが擦り切れるぐらい、何度も何度も繰り返し聞きながらうっとりとした表情になり、興に乗るとその場でくるくる回り始めます。「トレイントレイン」のテープの予備は、キヨシくんの担当教員が自宅でダビングしてきていました。
キヨシくんの隣のクラスに、チエさんという生徒がいました。彼女も音楽を聴くのが大好きでしたが、キヨシくんとは好みが違い、演歌がお気に入りでした。その頃、彼女は天童よしみの「珍道物語」にはまり、休み時間になるたびに繰り返し聴いていました。
ある日、いつものように「珍道物語」が流れてきました。チエさんのクラスではなく、重度重複学級の教室からでした。チエさんが遊びにきているのかな?と思って教室をのぞくと、彼女の姿はなく、キヨシくん一人だけでした。「珍道物語」を聴きながら、キヨシくんはうっとりとした表情を浮かべ、くるくる回っていました。驚きました。アップテンポの曲にしか興味がない、と思っていたので、本当に驚きました。
その後キヨシくんの様子を見ていると、一人でチエさんのクラスに入り、「珍道物語」のテープを持って自分のクラスに戻り、デッキにかけて聴いていました。曲が終わると、私の手を引いて「巻き戻して」と求めてきました。他の生徒の聞いている曲が気に入って、自分の力でそれを手に入れる。今までほとんど見たことのない姿で、私は本当にうれしく思いました。
しかし、キヨシくんの担当の教員は、そんなキヨシくんを見て、もう一人の担任にこう言ったのです。
「お父さん、地域のオーケストラに入ってるし、演歌のテープを聴いてるなんて、連絡帳に書けないよね」
彼らは、卒業生の保護者が立ち上げたボランティア団体に積極的に関わるなど、職場内でも保護者の間でも「熱心な先生」という評判でした。しかし、彼らの言う「興味・関心の広がり」の中身はとどのつまり、彼らの価値観の範囲内に限定されたものだったのです。
生徒たちを見ていると、「自分が好きかどうか」を中心に据えて、物事を選んでいるように思います。それが、身近な大人の価値観とは違う方向に向かうことがあります。それを「障害があるから何もわからない」と切り捨てるのか、その生徒の持ち味だと共感するのか。
キヨシくんの「珍道物語」が、今もきっと、どこかで誰かと新しい「物語」を生み出していることを、折に触れて想うこのごろです。

