引き裂かれた恋人を捜す大聖女は生贄結婚をすることになりました! ~実は私がスパダリ大聖女といわれているのは、ご存知ないですよね?~

「違うんだ。そうではなくて!」

「いえ、お気になさらないでください。そういうことでしたら、きっと、俺よりもあなたを幸せにできる方だと思いますので――」

 寂しげに笑った。縁談を嫌がっていたはずなのに、なぜか背けたレナールの顔は、ひどく辛そうに目を伏せている。その顔が、なぜか夢の中のはっきりとしない面影と重なった。

 アレッシェラを不幸にしたと、悲しみながらどこかに連れて行かれる相手――。

 ただ、切ないまでに悲痛な声の響きが心に蘇る。

「違う!」

 だから、咄嗟にレナールの腕を掴んだ。

 そして、横を向いた顔に手を伸ばす。アレッシェラから逸らした目に、もう一度自分の姿を映してほしくて――。

「レナール様……!」

 目をこちらに向けさせるため、頬に左手を添える。その途端、触れた皮膚の下から鼓動がどくんと伝わった。

 刹那、感じた力に目を見開く。

(なんだ、これは!?)

 今まで、人には感じたことのない力だ。

(この力はおそらく――)

 だとしたら、神々は、この魂の持ち主になにをしたのか。

 ハッと目を見開いた瞬間、レナールも頬に添えられた手に、驚いたようにアレッシェラを見つめている。

 わずかに目が潤むようになった。まるで、なにかアレッシェラと似た感覚に囚われたような顔だ。

 だけど、目が合って、次にレナールが取った行動は、アレッシェラの手を外すことだった。

 そして、静かに背を向けていく。

「馬車を用意させます。それでお帰りになり、一刻も早く国にお戻りください」

「レナール様……」

「そんな方がおられるのなら、早く帰られたほうがいいです」

「それは違うと先ほどから――」

「たとえそうではなかったとしても、どちらにしても、俺ではあなたを幸せにはできないのです。だから、お帰りになるほうがあなたのためなのです」

 そう話すと、背中を向けたまま、すぐに歩きだしていく。

 そのすべての言葉を拒むような背中を見つめながら、アレッシェラは先ほど感じたレナールの力に、左の手のひらをぎゅっと握りしめた。